「八岐大蛇」 | 「藍染 迅(超時空伝説研究所改め)」の部屋

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小説家ワナビーの「藍染 迅(あいぞめ じん)」です。

書籍化・商業化を目指し、各種コンテストに挑戦しながら、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ、アルファポリスなどに作品を投稿しています。

代表作は異世界ファンタジー「「飯屋のせがれ、魔術師になる。」。

1.伝説のあらまし:
 
八つの頭と八つの尾を持つ大蛇。
或いは、八つの山、八つの谷に跨るほどの大蛇。
 
八岐大蛇は民を苦しめ、娘を食らう巨大な化け物として記紀に描かれている。いずれ神話なので何を書こうと自由なのであるが、そのように書かれるにはそれなりの理由がある筈だ。
 
まず、そこには「巨大な力」があった。
それは(ある)人々の生活を脅かし、苦しめる力だった。
 
そして、その力は別の力によって倒された。
その力を「素戔嗚尊(すさのおのみこと)」という。
 
倒した「大蛇」を切り刻むと、尾から剣が出てきた。
この時スサノオの剣は、刃が欠けてしまった。
尾から出たのは「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」であり、後に「草那芸之大刀(くさなぎのたち)」と呼ばれた。
 
スサノオは救った娘を妻として娶る。娘の名を「奇稲田姫(くしなだひめ)」という。
 
二人は「根の国」へ赴き、そこに定住する。
 
「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣え」
 
二人の間に産まれた子供が「大己貴命(おおなむちのみこと)」である。
 
以上が八岐大蛇伝説の概略である。
 
さて、これをどう読み解くか。
 
 
いま時空の扉を開こう。
 
2.「大蛇」について:
 
「八岐」については、取りあえず前節での解釈でよいだろう。
 
それ程大きいとすれば、これはもう生物ではなかろう。
自然のものであれば「川」だとか「洪水」と想像され、人であれば「敵対する他国の勢力」と理解されていたりする。
 
上のどちらも正しいのではないか。
 
結論からいえば、「大蛇」は砂鉄採取用の水路「鉄穴流し(かんなながし)」の原始的な形態であった。
 
砂鉄を含む土砂を山の上から水と共に流し、その力で粉砕しつつ、途中に設けたダムで砂鉄を含む土砂と只の土を分離する。
下流に向けて何度もそれを繰り返すと、最後には砂鉄だけを抽出する事が出来る。(厳密には純粋な砂鉄ではないが、製鉄原料となる)
 
砂鉄を採集する人々を「鉄穴師(かんなし)」と呼んだ。
 
下流に住む人々から見れば水利を奪われる上に、汚濁した水を垂れ流され、時にダムの氾濫に晒される事になる。大いに迷惑だ。
 
相手は山に住む人々だ。
食物を奪いに来たり、娘をさらって行く事もあった。
 
しかも鉄製の武器を持っているのだ。
農耕民では歯が立たない。
 
青銅製の剣で立ち向かった所で、「刃が欠けてしまう」のが落ちであった。
 
その様な戦いが何度も繰り返された。
 
大蛇の尾から剣が現れたのは、「鉄穴流し」の最下流で鉄が採れたという事を表す。その鉄で剣が作られた。
 
「おろち」は「遠呂智」や「遠呂知」とも書き表す。
「お」は「峰」を表し、「ろ」は接尾語、「ち」は霊力を表すという説がある。
それで言えば、「おろち」とは「山の精霊」「山の力」という事になろう。
 
もっとシンプルに「お」は「尾」だと考えれば、「尾に存在する霊力」即ち「鉄穴流しの下端から生まれる鉄」と理解する事も出来る。
 
八岐大蛇については、概ねそういう事で良いだろう。
 
3.スサノオ:
 
神話に語られるその姿を見れば、「荒ぶる神」そのものである。「スサノオ」とは「荒ぶる男神」という事で良かろう。「乱暴太郎」である。
 
「お」は「尾」にも通じる。「鉄穴流しの暴れる下流」である。
 
後者の解釈をすると、スサノオは自分自身と戦い、これを倒したことになる。
どちらの勢力ということではなく、「暴力」「忌むべき争い」を象徴しているのだ。
その意味では、オロチとスサノオは一体なのである。
(だから最後には娘を連れ去った)
 
スサノオは天照大神の弟神とされ、アマテラスに天叢雲剣を捧げる。
 
アマテラスは太陽神であり農耕神である。
製鉄部族が農耕部族の支配下に入ったという事になろう。
 
スサノオが製鉄集団である証拠は他にもある。
「雲」である。
 
製鉄には大量の木炭を燃やす。
それは途方もなく煙が出たことであろう。
 
「八雲立つ」
「出雲」
「叢雲」
 
という景色になる。
 
4.クシナダヒメ:
 
日本書紀によれば「奇稲田姫」。

「奇し稲田」とは「霊妙な稲田」、「不思議な稲田」という事になろう。
何が不思議なのか?
 
「鉄穴流し」を行った後には、ダムの名残が段丘状に残る。
即ち、棚田が出来るのだ。
 
山だった所が水田になる。
そりゃあ不思議だったろう。
 
水を堰き止めた石垣が、「八重垣」である。
 
しかし、出来上がった棚田は製鉄民には無用の長物である。
下流の農耕民に使わせてやれば良い。
 
山と平地、二つの部族が共存するようになる。
相婚も生じるであろう。
 
鉄器と食料を交換する相互扶助が始まる。
 
これにより農業生産性は爆発的に向上する。
鉄製農耕具により大王が生まれ、巨大古墳の築造を可能にして行く訳だが、それはまだ先の話。
 
ちなみに、「ヤマタ」を「山田」と読む事も出来そうだ。
 
5.オオナムチ:
 
最後にオオナムチであるが、「大穴持」という別表記がある。
採鉱製鉄部族の大王という事で良いだろう。
実在の個人というよりも、その属性を代表させている様だ。
 
出雲のオオナムチが大和の土師氏へと繋がって行く。
菅原道真までは、まだまだ大分道のりがある。
 
ゆるゆると参りましょう。
 

これはすべて想像の産物である。

【参考文献】ウィキペディア日本語版の関連項目