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暖かくなった頃、体調に異変が生じる。呼吸時に胸が苦しい、めまいがするといった症状だった。保険証を持たない私は、医者にいくことなくただひたすら辛抱することになる。
(原発事故の影響が出てきたのではないか)
そんな不安に苛まれたのはアトピー発症の時と同様だった。
ちょうどこの頃は、いわゆる「美味しんぼ」騒動が起きていた時期だった。福島第一原発にほど近い双葉町の町長だった井戸川克隆氏がグルメ漫画「美味しんぼ」作品中に登場し、毎日鼻血が出るという自らの体の異変を訴えていた。井戸川氏はそのような症状は町内では珍しくなく、また体毛が生えてこなくなった人がいることもあわせて訴えている。
「ホンマでっか!?TV」などでおなじみの武田邦彦教授は、原発事故の4年後からその影響が顕著に出てくるだろう、と予測していた。すでに震災から3年がたっていた。
(いよいよ影響が出てきたのだろうか?)
自らも体調不良が続く中、そのような不安がふくらんだ。その不安感が以下の仮説をうみだすことになる。
(原発仮説)
福島第一原発事故以降発生したさまざまな問題と、ぶっかけ・同時噴射などPATMがうみだした五十嵐久敏の異常行為の習慣化は連動している。このような考え方を原発仮説とよぶことにする。
この仮説を提唱したのは当然のことながら偶然不信派である。
(ぶっかけを始めたのは2011年初頭であり、原発事故が起きたのとほぼ時を同じくする。自らの生活態度の異常さと、汚染水が垂れ流しになっているともいわれる日本の異常さは、リンクしているように感じられる。これは偶然などではない)
これに対して、常識尊重派は以下のように反論する。
(原発問題も、ぶっかけも、共通しているのは2011年に始まったことだけである。たったひとつの偶然をもとにそれを連動していると考えるのは、考え過ぎというものだ。ただでさえ統合失調症と言われているのに、自分のせいで原発に異常が発生したなどと考え出したら、精神異常者そのものだ)
このケースでは、珍しく常識尊重派の主張が強く支持されることになる。
原発仮説を意識するようになって以降も、私はぶっかけをやめられずにいる。咳をされた直後というのは、いわゆる心身喪失のような状態である。半ば無意識のうちにぶっかけをしていたというケースも少なくない。自らの意志でぶっかけを自粛することは、私の実感からいえば不可能に思える。今後もぶっかけによるストレス発散は続くだろう。
しかし、原発仮説を信じれば、ぶっかけは国の未来をも左右しかねない大罪ということになってしまう。それこそ万死に値するかもしれない。このような状況では原発仮説など間違いであってほしいという気持ちが強くなる。
(原発事故に関する問題はあまりにもスケールが大きい。いくらなんでも自分にそこまでの影響力があるとは思えない)
(福島県は私とは縁もゆかりもない土地である。その地方の問題を自分と結びつけて考えるのは無理がある)
このように自らに言い聞かせることで、心を落ち着けるしかなかった。当初、原発仮説を信じる気持ちは、数値でいえば10%程度だったと思う。破滅的な未来への予感をなんとか心の片隅に追いやり、日々の生活を続けていくことになる。
幸い、体調不良は1か月ほどで回復した。しかし、原発仮説の登場によってうまれた不安感は今も続いている。