,hugeMUDDYwater, | BeerとAromaとmoreTHANwords!!

BeerとAromaとmoreTHANwords!!

レベルは36から上がらないそうです。

そして日記をUPしてから30minくらいはセルフ校正入ります。

社会の現実を知らず
他者との関わりに
何の価値も見出だせていない

そういう頃の誰かの話



決めている事は既にあった

言いたくない事は言わない
書きたくない事は書かない
他言を慎み、信用もしない
それが僕だった


友人は少量に限る


識別不能な人間関係など
無に等しいと言う現実を
高校で学んだからだ


何人かの軽薄な知人から
幾らか参考にならぬ知識を貰ったが
結局の所「内密に」と言いながら
目前で情報漏洩を謀ったり
ネット上で実質的公表をする者
自らの挙動そのものが
言行不一致や不誠実を証明していた

そういった「彼ら」に対し

そのような評価を僕はただ無言で返すのだ

しかし無言や無表情だからと言って
無感動、まして感情が無い訳でもない
受け容れて欲しい相手は近くに居なかったのだろう
いや、当時はそんな欲求や衝動の存在に気付いてすらいない

この密実なる沈黙を反芻する度
退屈なスタンスを選択し続ける
こんな小さい社会規範内においても
意志や希望すらも表明できない自分に煩悶していた

時に彼らを黙殺する事すら面倒になる時があった
そんな時、ゴシップ好きな彼らもまた僕同様に人間であり
その銃の乱射にも悪意は無いと仮定をしてみるのだ
呼吸に近い行為、いや一種ありふれた現象なのだろう
と、興味も無いので大して考察はしていないのだが
今思えば単なる思い付きで、彼らの弁護側に付いたりした

そういう事になると寧ろ
大して痛くもないのに流れ弾に当たったと騒ぎ立てる
本来の被害者に対して矛先を向け、勝手に苛立ちを覚えていた

身勝手な言い分だが
黙ってはいても捌け口は必要だった


全てが脳内で完結する排泄行為
これを唯一の聖域と信じ疑わない
それが僕の世界観全てだった


そんな沈黙の世界は
不定期に訪れ

僕から表情を徐々に奪い
僕の感情を研ぎ澄ます

厭な少年が腐敗しながら
厭な青年になり
繭は泥水で充たされるだろう

本人もそういう未来が到来すると薄ら覚悟を決めていた

これは
その繭の中での些末な出来事


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第一部、泥流の王


連日の雨も尽きたある日。
花壇の花々が力なく萎れ土もろとも干からびるほどに暑い日。

あの日のあの時から、僕は多分大事な事に気付き始めた

今はその数時間前


2000/07/21(金)10:15
祝日と土曜日の間の平日

何故だ

何故こんな日に染野は臨時講義なんてするんだ
「ナンセンスっ」

周囲に誰も居ない事を確認して、わざわざ独り言を吐き
空っぽの学食からゼミ棟に向っていた
そもそも人が居ないなんて事を確認する必要はない
一般の講義は無い時期だからサークルの仲間どころか
学生自体が居ないのだ

きっと自宅通いはバカンス
一人暮らしは、部屋で動物みたいに女とじゃれ合う
相手はバイトかサークル、合コンで口説いた女か

どうせ学生の夏休みと言えば相場は決まっている

その何れかにも縁遠い僕は苛つきながらエレベーターに乗った

同じ境遇のゼミ生を代表し、その総意を顔面で訴える目的で
一つ不機嫌の極地を演じてみようと壁面鏡を相手に努力していた


すぐに飽きた後、
ポツンと独り、
ゼミ室で染野を待った、

ぼんやり壁をみると
部屋の時計は09:00丁度

いや待て
腕時計の針は10:21
明らかに狂っている

こんなにズレた時間に支配されていた自分が情けない
まして先程の変顔も合わせて考えると気が狂れそうになる
ゼミ単位も棄て、いっそ旅にでも出てやろうと立ち上がった、その時

ギイと
建付けの悪いドアを鳴らしながら見覚えの無い人影が入室した

瞬間的に部外者であると認識できた、高校生くらいだろうか、
視力は良い方でないので、女の様相は判別出来なかったが
本能的に視線を合わせず相手の特徴を記憶しようしていた

今どきにしては珍しいのか知らないが、化粧っ気は無い
ショートボブ、白いカットソーから活発な印象を受けた

こちらから声を掛ける気は更々なかったが

一呼吸の後、恐らく自分のタイミングを探りながら
いかにも不安を隠しきれないという表情で彼女は言った

「ここに染野は居ませんか」
「父と連絡が取れないのです」

それを聞いた僕は
染野の娘と名乗る女が僕に手助けを求めているのか否か
それが一番気になってしまった、何故ならそんな正義感は無い
今まさにここから無言で逃げ出そうとしているのが僕で
確認してしまったら頼られるのでは無いかと思ったからだ

大体、染野と似ても似つかない、それは結構な事だが
無用なリスクなんて一番厭だ、一切負いたくない。
監視カメラがどこかに設置されていないだろうか

実のところ彼女の外見には少しだけ興味を惹かれたが
見返りなんて期待出来ないだろう、などと
今にも泣きそうな彼女を目の前に不謹慎な事ばかり考え

ある結論に至った

なにせ本当に染野の娘だとしたら、それ自体が忌避事項で
そしてやはり面倒は御免だ、僕に解決する能力は無い

「へぇ染さん、行方不明?」
「僕は行方不明者に呼び出され、夏休みにこんなとこに居る」
「そいつは笑えないな」

と極力無味乾燥に娘に告げた後、
全く染野自身の心配をしていない自分にも気付いた



そんな事で
ゼミ室での二人の沈黙は続く


先程まで気にならなかった中庭のセミの声がよく聞こえた



ゼミは「比較経済体系論」
染野は上北沢在住のおやじでセクハラ、ダジャレが趣味
ついでとばかり僕が所属する当ゼミの教授をしている
当然、染野に娘がいるなんて事実も噂も耳にした事はない

ゼミは5グループ構成

第1グループは4回生
第2から第5は3回生
僕はその第3グループに属し、普段3Gと呼称している
3Gで真面目に勉強するのは、言いたくないが僕だけだ

3Gは、色々なのが居る

新ゼミ長で誰にでも優しすぎる口説き屋のイケメン、畠山
通称ハタさん

腹黒いディストーションに定評のあるギタリスト、藤沢
通称フージー

毎日毎日、本当に女の話しかしない男、干野
通称ホッシー

二浪一留で先輩達より歳上で燻し銀の酒豪、矢野
通称ヤノ兄

特徴の説明が難しいから割愛、愛すべき友、漆原と横須賀
通称チワワとヨコ

3G唯一の女、なるべく紅一点とは言いたくない
ゼミ中では多分美人な方で性格は悪女と呼ぶに相応しい
それでも彼女は人気者で無関係な場面でも名前をよく耳にする
要するに噂の絶えないタイプ、その殆んどが色恋沙汰で
そんな話を聞いても普段は敬遠しているフリをしたが
恥ずかしながら僕も少しだけ憧れていた女、大澤
通称カナ

最後にこのゼミの副長は僕で無口な男、古町
通称は無い

四回生を除く三回生組は4グループもありながら
人員は偏り、研究テーマもバラバラ、いかにも不均等で
染野が無目的にくじ引きか何かで勝手に組分けしたのは
誰もが疑わない事実だった

そうは言っても個人的にメンバーが不満とかは無く
仲間同士でのトラブルも、しばしば仲裁させられたが
馬鹿学生のトラブルなど可愛いもので泥臭い事はなかった

舞い込む面倒の仲裁依頼が来る度に、疑問を抱きつつも
その居心地の良さを感じ始めていた、そんなとこだろう


そもそも僕は、ゼミ「商法」を狙っていたのだ
わざわざ静岡から千葉の大学に来た理由はそれだけだった

結局のところ
教授に賄賂擬いの贈り物を自宅に届けた連中のうち
贈答品が高価な順番に商法ゼミに採られたらしかった
事実選抜試験もデキレースで実物での予習が必要な設問だった
これは出来の悪いドラマか?これが世の中の縮図か?

正攻法でこの状況を覆せない無力感を味わいながら
サークル棟でハタさんとフージーと何度も乾杯した

それぞれの世界では
どんなに大きくとも
どんなに小さくとも
権限を行使する者がいて

気紛れな独断と趣向で意志は決定されているのだろう
ならば僕らは世界に隷属するフリをしながら
最終的にシステムを利用してやろうじゃないか

など、と知的エリート群から早々に脱落した学生らしく、
負け惜しみの会話の果ては
資本主義社会における物神的ゆらぎへの渇望、として帰結させた


確か丁度、半年前だったか


そんな事よりも

中庭から送られる
ジリジリ耳障りなセミの声が半年前の回想を遮断した

延々ゼミ室では僕から娘への沈黙は続いていた

諦めの悪い彼女は、再度自分のタイミングを模索し話し出す

「名乗りもせずすいません」
「染野の娘のアスミです」

名前なんてどうでも良かった
いい加減、決着を付けたくなり、本当に厭だったが

「ゼミ生です」
と応えた、あくまで名乗らない

「教授からは昨晩、臨時講義を10:30に行うと連絡があり」
「時計が壊れていて時間を間違えた僕はこの有様です」
「だから他のゼミ生は居ないんです」

事務的に間抜けな状況を伝え、少し笑わせようとしたが
逆効果だったようで、娘には時計の心配をされてしまった上、
事態は僕が考えている以上に深刻らしい事がわかった
だが
僕は直感的に気付いていた、度々話の焦点がボヤける事
口もとを触ったり、口を開く瞬間視線が定まらない事を

彼女は確実に嘘を吐いている

だから僕が嘘を見抜いたと悟られぬように、話自体よりも
彼女の仕草に注目していた、

何故、嘘を吐いたか?

それは後でゆっくり考えようじゃないか
人が嘘を吐く理由はいくつかあるのだ

その眼差しに悪意が無い事は容易に確認出来たし
僕の仕事は犯人捜しでもない

いや、、、そもそも
なんで話なんて聞いている、早く逃げ出さなければ
いつの間にかペースはアスミと名乗る娘に支配されていた

まずい
早く逃げ出さなければ
言われる、あの言葉を

「あの、ゼミ生さん」
「一緒に父を探して下さい」

あぁ
遅かった
言われた

僕は人とのコミュニケーションが極度に苦手で
同意する以上に高度な、依頼の断り方を知らないのだ

黙っていれば良かった

あぁ
こんな事になったのは

この狂った腕時計と
今朝方、目覚ましよりも早く僕を覚醒に導いた

この悪夢だろう

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地球上の全てが
漆黒の泥の津波に
喰われていく

あれだ、
その漆黒の泥は、、、

ギィとまたドアが開く

そこに大澤が立っていた

僕と娘を交互に見て
無言で部屋を出ていった

そして閉じてしまった扉の奥に向けて僕は言った

「おい説明させろっ」
「つうか聞けよ」

返事は無く、数秒後

ドンっと一度だけ激しくドアは蹴られ
足早にミュールの靴音は遠ざかり消えた

不思議な事にアスミはあまり動揺していなかったが
二人とも無口になったゼミ室はまた静かになった

中庭のセミはもう鳴いていない

逃げ出したのか
いや死んだのか

どっちでも良かったが

何だかそのセミが
とても羨ましくなった



泥流の王(了)