前回の続きですが、Nさんの催された正午の茶事は、定刻通り午前11時に始まりました。

 今回のお正客は、鎌倉からお越しのakaさん、次客は今年茶名を取られたSさん、三客は、茶事に連なるのは初めてというSuさん、お詰は、諸方で茶事を経験されているHiさんという茶友のメンバー。寄付きに、半東のCさんが桜湯の汲み出しを持ち出します。それから我が家の構造上、再び玄関から出て、腰掛けの方へと進んでいただくのですが、ここで早速椿事。腰掛けは武家流風の割り腰掛(正客と連客の腰掛けが別になる形式)で、下の写真の手前に腰掛けに入る戸口があるのですが、枝折戸の向こう、茶室の横に亭主用の露地口があります。その方が玄関から近いので、竹竿は渡してあるのですが、我が家の小寄せなどに度々見えているお正客は、勝手知ったるでつい近道をと思われたか、そこから入ろうと。

 覗き見していた妻が、制止して、笑いの内にやり直し。やがて亭主が迎え付けに出て、無事席入り。床は茶杓飾りの形をとっています。

 窺っていると、挨拶は、緊張気味の亭主は、やや言葉少なですが、物慣れたお正客の会話に、だんだん打ち解けられた様子。そして炭点前になりました。釜は時候で透き木釜、炭道具は、内朱の炭斗、羽箒姉羽鶴、高橋敬典の平目釻、高木治郎兵衛の利休形火箸、灰器は万古焼の南蛮写しなどで、香合には、知命の主題にちなんで、干支である丑の香合を使われました。吉向松月の騎牛童子です。

 お正客も、たまたま同じ干支だそうで、話が盛り上がったそうです。さて、私は何をするわけでもなく、まあ多少の経験はありますから、何かあれば最低の手助けとか、半東さんに時間を告げるとか程度のことで、ぶらぶらしておりました。懐石は、妻が担当して、味噌汁は蓬麩、向付は合鴨の塩蒸しに山椒味噌、煮物椀は鯛、焼き物は鮭、薦め鉢は、お正客から到来した若筍にわかめの焚き合わせ、香の物は沢庵、胡瓜、赤蕪の三種といった献立。懐石の間は、小卓と低い椅子を出して、お客様が楽なように配慮。懐石の最中、今度は亭主が椿事を。汁替えは、客一人づつの汁椀を下げて、交互に新しく盛って出すものですが、ご亭主が、何か勘違いされて、脇引盆で、次客と三客のを一緒に引いてしまった。 片方の蓋を裏返して、どれが誰のかわかる配慮はしてあるものの、点心方は「え?」という感じ。まあ、この程度の椿事は、茶事をすると、必ず一つは起きるものです。

 亀屋万年堂製の「山道」というお菓子が出て中立。

 もう一つ、中立後に、危機一髪のことが。亭主が銅鑼を鳴らされた時、初めてにしては、上手な打ち方で良かったのですが、打ち終わって安堵されたか、にじり口の手がかりを開けずに下がってしまった。たまたま私が、点前座を撮影させてもらおうと茶室に潜り込んでいて、それに気づき、あたりに半東さんもいないので、咄嗟に手がかりを開けようとしたら、開かない!慌ててよく見たら、ご丁寧に鍵が掛かっている。教本通りにされたのでしょうが開け忘れちゃ困る。たまたま居合わせた私が椿事を防ぐ功労者になりました。

  萍亭主