前回の続きですが、第8弾終活茶事、お客様には初見の道具でと思案したものの、私の記憶違いで、躓いてしまいましたが、ともかく濃茶の段階に。

 前述のように、お客のHさんもKさんも我が家の道具はよくご存知、一方、Hさんの夫君は我が家の茶室に入られるのは初めての茶の湯に縁のない方、どうバランスを取ればいいか、頭を捻りました。ご夫君は現役の実業家で、現代人ですから、あんまり古臭いもの、わび道具は出さない方がいいか、などと思い、そこで前述のように。花入も水指も少しモダンな感じにしてみた。勿論、 Hさんたちに初見のものという事も含めてなのですが、その目論見が最初に外れたのは前述の通り。ともあれ、全体には、比較的新しい道具でまとめてみました。Hさんたちには、今まで割と古めの道具をお見せしてきたように思うので、まあ初めてではなくとも、あまりお見せしてはいない筈という、あやふやな記憶です。濃茶茶碗は、今回は客三人ですから、一碗で、濱田庄司作の飴釉紋押し茶碗を。昔、亡父が窯元の見学に行って、直接入手したもの。

 茶入は、備前金重陶陽作の肩衝。茶杓は、おめでたく「蓬莱山」の銘のものを。高橋箒庵の作で、畠山即翁に贈られたもの。私の掘り出し物なのですが、その経緯はいずれまた。

 茶は星野園詰の「鳳の昔」、最近、奥様に勧められて、健康のため、濃茶を飲み始めたという夫君も、美味しいと仰って下さいました。歓談しながら、例の如く続き薄茶にしたのですが、ここで、大ポカが一つ。「それでは、釜の煮えもよろしいようなので、続いてお薄を」と挨拶して、妻は薄茶碗を持ち出したのですが、あれ、干菓子を出していない!実は、普通の手順としては、座布団を持ち出し、それから干菓子を出す(煙草盆は省略していますから)という手順ですが、今回は膝が悪いKさん(その為、茶の湯から離れられているのですが)と、正座に慣れないHさんの夫君のために、低い椅子を使いました。その為、座布団を持ち出す必要がなく、動きが一つ省略したら、つい次のことも省略してしまった次第。どうもすみませんと、、笑いの中にやり直し。

 干菓子は、都鳥と水をあしらってみました。器は守屋松亭作の朱末広形で、これは正真正銘の初使い。

  主茶碗は、正客が午年の古希なので、呉須の馬の絵を。見込に「稀」という字が書かれているので、今日にうってつけです。箱に「応需」とあるので、注文品なのでしょう。初代、須田菁華の作。

 替茶碗は、伏見焼で、野崎幻庵の絵付け。牡丹の花と「赤き血となりて体の養いになるは緑の茶にこそありけれ」という狂歌が書かれているので、夫君向けに。

 薄茶器は渡辺喜三郎作の昔形の茶器。「山挽茶器」と箱にはあります。「薄茶のお道具は、初めて拝見すると思います」と、Hさんが仰いましたが、楽しく歓談しているうちに、そんな事はもうどうでもいいという気分になるような、楽しい時間が過ぎました。考えてみれば、変わり映えしない茶事ですが、主客共に満足出来れば、もって瞑すべしでしょうか。

   萍亭主