前回の続きですが、終活茶事の第8弾は炭点前も無事終わり、約束事の吸い物八寸に移りました。

 今回の吸い物は、祝賀の席なので、鯛にし、八寸はカラスミ、鴨、空豆、もって菊と胡麻の酢の物。それに小さな俵形にした赤飯。八寸がちょっと品数が多いもは、Hさんの夫君がお見えなので、お酒をたっぷり飲んでいただこうというつもり。千鳥の盃事は省略しましたが、ぐい呑みも持ち出して、私もちょっとお相伴して盃を傾けました。

 器具は、石州好み杵椀、鍋島焼蕪皿、瀬戸色絵小皿など。終わって菓子は寿饅頭を、帯山与兵衛作の鉢に入れて。虎屋に発注したのですが、以前作ってもらった菓子の色を例に、あれよりもう少し濃い色の紅色がいいと言ったのですが、言葉だけでは感覚は伝わらない。予想よっり真っ赤な感じで、困惑しましたが、おめでたさの強調と考えることに。

  中立の後、いざ、お茶をという段ですが、ここで困ったのは、HさんもKさんも、何しろお付き合いが長く古いので、我が家の茶会は客になられたことも、水屋を手伝って下さったことも数えきれず、我が家の道具は知り尽くしている。おまけに、道具に関して記憶力がよく、また道具持ちでもあります。お持ちのと同じような道具は使えず、また初めてお目にかけるような道具で、道具組みが出来るか悩むところです。別に、一度見せた道具を使ってはいけないということは無論ないし、昔の茶人は、そんなことに拘っていない。宗旦や山田宗徧など、同じ客に同じ道具を何度も使っています。道具に頼らなくても、客を楽しませる腕、風格があったのでしょうが、こちらは、残念ながら、そんな器量はありませんから、どうしても道具、趣向に頼りがちになります。はて、あの茶会には来られていなかったよな、などと記憶を探りながら、なるべく初めてお見せする道具でと、頭を絞りました。

 とりあえず、花は白牡丹を。二年前に手に入れたのが、今年は十輪ほどの花をつけ、この暖かさで咲き誇りましたが、なんとか今日まで咲かずにいたのを冷蔵庫で騙し騙し保存して使いました。花入は、二十年近く前、トルコに行った折、窯元で買った品で、鶴首形が気に入っています。

 水指は、滅多に使ったことがない品で、私の記憶では、十年前、頼まれて護国寺で席持ちした時使い、その後仕舞いっぱなしで、先日、織部流家元や官休庵の方達をお招きした時まで、使った覚えのない品です。天保七年に紀州藩の武士が拝領したという箱書があり、福州写しというものだそうですが、モダンな感じで、使い所が難しいのですが、あえて小間で使いました。自信満々で「これは初めてお目にかけると存じます」と挨拶したら、「これ、拝見したことがあります」とHさん。するとKさんも「私も見たことがある」と。「えっ?!お二人とも護国寺の茶会は関係ありませんでしたよね」。二人とも来ていないけれど、見たことはある、何の折かは覚えていないが、品物は強烈な印象があって、忘れられないとの事。二人の証言が一致では、私の記憶が間違っているのでしょう。しかし、護国寺の茶会が初使いだったという記憶が間違っているとも思えず、その後使った記憶がどうもないのですが、いよいよボケが始まったのか、我ながら心細くなります。続きは次回に。

   萍亭主