前回の続きですが、茶名式で許状の引き渡しが終わった後、Sさんご本人が亭主となられて、小間で、立ち会いの方やご家族に、薄茶を振る舞われました。

  準備の段階で、席に潜り込んで、道具を拝見したのですが、なかなか面白かった。Sさんは東京芸大のご出身で、現役の陶芸作家、茶器や食器を作られ、お仲間と一緒に、展覧会も何度も開かれています。我が家も何点か使わせていただいている次第です。ご実家は愛媛の旧家で、裏千家の茶の湯ともご縁のあったお家とか。愛媛はご存知のように、裏千家とは縁が深い土地柄です。床には、お祖母様の書かれたという色紙が飾られました。この席のために、色紙を保管されている伯母様から、わざわざ送ってもらわれたそうで、席に入られたお母様も感慨深かったと思われます。

 「甕にあれば甕のかたちに春の水」という俳句です。私は近代俳句に詳しくないのですが、お祖母様は、俳人として著名で、この句は、代表作として、愛媛に句碑も建てられているそうです。他にも地元にはいくつか句碑があると、詳しい方から伺いましたが、正岡子規以来、俳句が盛んな愛媛でも句碑が建つとはすごいことです。そして、テレビで今、木曜の夜に放送されている「プレバト」という番組で、俳句を作るコーナーがあり、その指導者(添削者)で、テキパキと歯に衣着せぬ発言で人気のある女流俳人は、お祖母様のお弟子さんなんだそうです。

 花入は、ご実家に伝わる古い花入で「村雨」という銘があり、花押もあるのですが、残念なことに箱が失われていて、作者が特定出来ない。

 味の良い竹で、いい品なのですが、茶道具にはときどき、良い物だが作がわからず困惑するこちがあります。どこかで見たような花押だが有名茶人のものか、忘れられている人のものかも分からない。お分かりの方はご教示頂ければ幸甚です。花は藪椿、日向水木、貝母の三種。

 点前座は、季節に応じて釣り釜の趣向。釜は名古屋の釜師後藤九吉作の東陽坊釜です。

 ちょっと長くなりそうなので、続きは次回に。

    萍亭主