今年もどうやら無事に初釜を終わりました。

 初釜はどうしてもおめでたい物づくしの趣向になるもですが、今年は、あまりそういうことを気にせず、自由気ままに設えを。

 軸は干支にちなんで「龍」。山岡鉄舟の書です。鉄舟は、勝海舟、高橋泥舟と共に、幕末三舟と呼ばれる一人で、本名高歩、幕臣で、明治維新の時、江戸無血開城の立役者となった人物として有名ですが、剣、禅、書に優れ、維新後は明治天皇の教育係を務めたことでも知られます。しかし、この人の字は、上手いのでしょうが、私のような素人には、すごく読み難い。大きい字が龍であるというのは、先代から聞いていましたが、横の小書は先代も読めなかったようです。使う以上、読めませんとは亭主としても言えないし、知人の博学な方に問い合わせたところ、早速ご返事がありました。「日献四海水」(日に四海の水を献ず)と読むんだそうです。ちなみに最後の行は「鐵舟書」です。この文句は「止火偈」という火除けのおまじないの「寄語宋無忌 天地火光速、家在壬癸神、日献四海水」の一句だそうで、禅宗の「諸回向清規」というものにあるとか。これが何故、龍と結びつくのかは不明ですが、龍吐水という消防器具の名もあるし、龍は水神と見てもいいからでしょうか。更に調べてみたら、茅ヶ崎の八王子神社というところの手水鉢に、山岡鉄舟が、この文字(龍と日献四海水)を書いたものが彫られているということで、写真を見ると、よく似ています。まさか、この軸がその原本?と思いましたが、これは分かりません。ともかく,おかげで何とか軸の説明は出来ました。考えてみると、禅僧、歌人、茶人、数寄者以外の人の軸を掛けたのは、初釜では初めてです。

 炭飾りは例年のごとく、これも勝手気ままに飾り、香合は昨年末に入手した大正五年の辰年の円能斎箱の龍香合を飾りました。次の辰の年には、この香合も二度目の還暦を迎えるわけですが、残念ながら、それは私には縁がない話です。続きは次回に。

   萍亭主