先日、上野の東京芸術大学の「卒業修了作品展」に行った折の事ですが。
広いキャンパスのいくつもの展示棟を廻って見て、展示作品の幅広さに今更驚きました。彫刻、油画、日本画、工芸(金工・陶芸・漆芸・ガラス・紙工・染色・縫製)、デザイン、建築、映像、舞台美術、さらに古美術の修復まで多岐にわたり、その上、展示とは関係ない美術史や考古学研究の部門、別のキャンパスには音楽全部門があるわけですから、芸術とは、えらいもんです。変化に富んで面白いのですが、見て廻るのは、ガイド付きでもなかなか大変。素人の感想としては、具象的よりは抽象的、古典的よりは前衛的な作品が圧倒的に多いようで、スケール的に大作が多い印象です。木彫で想像を絶するような巨大なマンモスの牙とか、クレーンで吊り下げた小屋とかもありました。考えてみれば、卒業修了製作として、前人未踏のものを表現しようとすれば、こういう傾向になるのでしょう。だから、茶道具なんか、あるはずがないと、工芸部門の展示室に入る時も思っていました。そしたら何と!茶道具があったのです。
約束事と制約が多い茶道具で、新味を出すことはなかなか困難と思いますが、この皆具は肌の色合いも見慣れた物とは違いますし、ふっくらした丸味の形も見たことがないように思えます。何より、変に尖った、いかにも新奇な感じではなく、茶室に素直に納まりそうな感じがいい。風炉釜も従来の呼称には当てはまらない型で、太い二つの筋というか溝というか昔の人ならば「太筋釜」とか「重ね釜」「溝釜」なんて勝手に呼ぶかも知れない。側に作者の名刺があり、ローマ字で「Eda」とあるので、もしかして江田蕙氏の関係?と思ったら、作者が現れて「息子です」と。江田蕙氏は、長野垤志の弟子で、淡交茶道具ビエンナーレ(という名だったと思いますが)第一回で大賞受賞した関東屈指の釜師です。2019年の暮の巧匠会で、今度加入されるからということで、作品展示があり、それまで在籍の釜師山口孝雄氏が引退されたので、良い方が加入されたと思ったものです。その時、江田氏本人は来られなかったのですが、代理の子息の方と挨拶した事を話すと、「ああ、それは兄です」との事。作品について伺うと、皆具の素材は「黒味銅」というそうで、砒素を含んでいるそうです。釜の釻付の形は「旋風」を表現したそうで、掻き立て釻で扱います。妻は「この釻じゃ細過ぎじゃない?」とか「風炉の前や回りに、これだけ隙間があると、炭がたちすぎないかしら?」と、遠慮のないことを若い作家に言っていましたが、作品全体は評価していたようです。茶道具が芸術品であることは、明治以降認められているようですが、さて、茶の湯そのものは芸術なのかどうなのか、室内芸術と規定された学者もおられましたが、ま、難しいことは考えないことにして、何はともあれ、若い釜師「Iori.Eda」さんの今後のご活躍を、心よりお祈りいたします。
萍亭主

