先週の土曜、東京美術倶楽部での正札市に行って来ました。
2020年には全く中止され、2021年夏に再開されてから今回が4回目。再開した時は、ピリピリした警戒ムードで、それなりの人員制限などもしていましたが、回を重ねるごと段々と警戒ムードは緩やかになって、今回は検温はありますが、消毒は強制されず、前回までは入場者は住所氏名連絡電話を書かされましたが、今回はそれもなし。第8波の最中、大丈夫かと思いましたが、クラスター追跡など考えなくなった世相なのかも知れません。開場直前に四階に上がると、エレベーターホールは一杯の人で、昔に戻った感じ。開場後の人数も、中国人が押し寄せた最盛期ほどの混雑ではありませんが、平均して、かなりの数に戻っている気がしました。同行者は、レギュラーの女性二人と、初めて来てみたという茶の湯初心者の男性一人。女性のお一人は、夏同様、わざわざ広島から来られた道具好き。初心の男性のリードは女性たちにお任せして、私は勝手にブラブラ。会場を見渡して驚いたのは、先回は割と寂しかった茶掛が、一行物、横物を主体に、やたら沢山出ていた事。全部で三百本近くあったのじゃないでしょうか。しかし、現代物ばかりで、面白いものや珍品はなさそうです。見渡したところ、釜や棚、炉縁などというような大きいものは少なく、懐石道具も以前ほどは出ていないので、それだけ小さな物が出ている、つまり品数は前より結構出ているという事でしょうか。ただ、どうも新しい、それも派手な色彩のものが多く、萩とか備前とか信楽というような渋めの物が少ないように思います。もっとも、例年以上に私は今回雑に見ているので、何んとも言えない部分もありますが。雑になった理由は、旅行後で疲れが溜まっている事、歳とって目も悪くなって面倒臭い事もありますが、入場早々、知り合いの道具屋さんに出会い「これどうです」と勧められて、一品を購入し、購買欲が満足してしまった故もあります。買ったのは、守屋松亭の干菓子器で、どこかの御大家の配り物でもあったかと思われる、そう大した品でもありませんが、松亭らしい粋な小品です。破格に安くしてくれたので、喜んで購入。その道具屋さんは、二軒のお客様から処分を依頼されたという品を大量に並べていて、「業者の市に出してくれと言われたのですが、それじゃ本当に安くしか売れないし、ここの方がまだしもですから。後で依頼主も見にこられるんですが、こんなに安くつけても売れないとお分かり頂けるでしょう」と苦笑。「私がお納めした品もあるので安くなって申し訳ないんですが」時世時節で仕方がない話です。昭和末期くらいの茶杓や茶碗が並んでいますが、家元系のものがない。それを指摘すると「家元の物は処分なさらないのです。二十万したものが四、五万は我慢しても、百万出したものが二十万じゃバカバカしいから、とっておくという事ですよ」と。道具の下落は、これから道具を収集という人には福音でしょうが、今まで集めた人には悪夢でしょう。最上級の品だけが値崩れもせず、どこかで流通しているというのは、今も昔も変わらないようです。
さて、いい加減に観たので見落としも多いでしょうが、次のものが目にのこりました。射和万古の色絵変形鉢、永楽保全の蓋物、惺入の向付など、いずれも結構な値段でしたが。玄々斎の手造り黒茶碗が三十五万でしたか、相場としては安く、円能斎、鵬雲斎の箱もついたちゃんとしたものですが、少し小箙で、何となくいまいち見栄えがしないのが、値段に表れているのでしょうか。手の届く範囲で、円能斎の茶杓や、益田鈍翁の茶杓もありましたが「千年丹頂鶴」や「磨かねば清き心も」の道歌など、銘が使いにくく手が出せませんでした。結局最初の買い物以外獲物なし。同行の知人は、楽山焼の空権の刷毛目茶碗を、昔なら箱代だけというような値でゲット。永楽などが結構売れている中、地味な物は安値が止まらないようです。知人はもう一つ、林淡幽の金蘭手の兎絵茶碗をゲット。広島から遠路見えた知人は残念ながら獲物なし。初心者の男性も、自分の眼で、田中寿宝の茶碗を買われたようで買い物の楽しみを覚えられたようです。いつもよりは早く、正午過ぎには会場を出ることになりなりました。
萍亭主