知人が、雑誌淡交の別冊で、こんな本が出たと、一冊持ち込んで来ました。タイトルは「茶の湯を安心して愉しむ工夫と心くばり」です。

 内容は、伊住宗匠(家元の甥)の巻頭言から始まり、「裏千家宗家における感染症対策の取り組み」が紹介され、以下「稽古、茶事・茶会での工夫と実例」「おうち時間を愉しむ」の二つに分けて、それぞれ、種々の記事が、写真、イラスト、漫画が沢山入って(それだけに文章は少なめで)掲載されています。パラパラ読んでみて、うーん、正直言って、何故今頃、こんな本を出すのかなあ、と首を傾げました。裏千家は、感染対策として、教授者の活動に対して、十三条の指針をコロナ禍初期に発表、これは、この本の巻頭言に再録されています(ちなみに裏千家宗家における感染症対策の取り組み10箇条も、全く同じ内容です)。あの通達から二年、どの稽古場でも、カルチュア教室でも、感染症対策は独自の工夫も含めて行われているでしょう。つまり、この本に書かれていることは、もはや当たり前過ぎて、新しい発見がないのです。検温、消毒、換気、マスク、ソーシャルディスタンスの徹底、各服点に器物の取り扱いの注意と、耳にタコほど聞き慣れた問題が、新しいやり方や発見があるわけでもなく書かれています。一昨年秋くらいまでに、この本が出されていたら、時宜に適した本と言えたと思いますが、今となっては「喧嘩すぎての棒ちぎり」の感を否めません。利休七則は、当たり前のことを書き連ねているが、実際にちゃんと行うことは難しく、常に思い出して拳拳服膺すべき教えである、それと同じように感染対策と十三条も、言うは易く行うは難しだから、注意喚起のために出版したんだと言われれば、恐れ入る他はありませんが。

 「おうち時間を愉しむ」という項目は、コロナ禍、外出を控えて、おうち時間を過ごすことが多いという世相に応じての題だと思いますが、「茶席で使えるお取り寄せ菓子」「好みの裂で簡単ソーイング」「これで安心白木の材で作られた清浄な銘々皿」という、ちょっとよくわからん短文が並び、メインは、、自宅に客を招いての茶事の実例の記録2件です。茶事は二つとも、露地や寄付き、式正の茶室がない、居住空間でのもので、工夫と心くばりはわかりますが、感染への安心は、それほどは感じられない。でも「淡交」では、式正の茶事はさまざまな形で取り上げても、こういうのはあまり取り上げない(だろうと思いますが、あまり読んでいないので間違いならご容赦を)ので、結構なことだと思います。そして、「ここまで出来るマンション茶室の工夫」という2頁の記事もあって、内容は、コロナ禍以前に知人がマンションに二畳中板の茶室を作った工夫と大差はないものの、こういう記事こそ、もっと深めて追求して、自宅茶事の記録とともに、例えばテーブルだけで茶事はやれないかとか、現代の住空間での茶の湯の特集を組む方が、より必要なんじゃないか。

 苦心して編集してるのに素人が勝手なことをほざきやがってと、編集者から怒られぬ先に、やめることにいたしましょう。

   萍亭主