前回、公開した我が家の秘密兵器。なんだ、これなら家にもあるわと仰る方があるかもしれません。
製作者の青森県の木工店は、その後、たしか特許も取り、制作を続けられ、近年は見かけませんが、十年以上前には宣伝もなさっていたはずですから、購入なさった方もあるでしょうし、我が家だけの秘密兵器とは、実は言えないのですが、ただ、私は、よそで見たこともなく、持っているという方の噂を聞いたこともなく、あまり出回っていない物だろうと、あえて書いてみたわけです。使ってみると、この棚は、いろいろ便利な点があります。本質的な部分では、いわゆる置き炉と違い、お点前の人の座高が、普通の炉に対して座る高さと同じなので、普通の稽古と違和感がないことですが、他にもいろいろ利点があります。意外に軽いので、移動が簡単です。洋間にも和室にも、四畳半以上の大きさなら置けます。道具畳に相当する棚は、畳半分より小さく、炉の入っている棚はそれよりも小さいので、使わない時は、重ねて部屋の一隅にでも置けます。思ったよりは収納スペースを取りません。茶事の折、炉の棚だけを使って水屋に置き、替え釜用に使うとか、寄付きに置いて瓶掛けの代用にするとか出来ます。寄付きが洋間だったりすると、意外に風情が出たりします。道具畳の棚も、ちょっとした座卓代わりになって、工夫次第でいろいろな汎用性があります。値段も全く手が出ないというほどでもありません。購入した当時、見に来た茶道具屋さんが値段を聞いて「永楽の茶碗一個分ですね、こりゃ思ったより安いな」と言ったものです。茶道具の値段が暴落して、永楽の茶碗も、今や中古品だと10万円台にまで落ちている品もありますが、それほど安くはない、十余年前の頃の永楽の値段とお思い下さい。本来、稽古用のものですが、妻は、これを内々の茶会に使ったこともあり、一度だけ、席主や、お点前の人の何人かが足腰が不自由ということで、外部の大寄せで持ち出したことがあります。流石に乗用車では無理で、運送会社に勤めている甥の車を頼みましたが。
この棚は、名前がありません。陸奥(青森県)で作られた品だから、「陸奥美」として「むつみ」と読み、睦みあうにかけて、「むつみ棚」という名前を勝手につけ、我が家ではこう呼ぶことにしたと、製作者の木工店の女主人に報告したら、大変喜んで下さいました。女主人は、その後、病気で御療養中ですが、ご子息が跡を継がれ、盛業中です。もっとも、その後、我が家では、気取った棚名でなく、妻が言い出した「座礼」という言葉が定着して、娘が「明日は座礼で稽古するから出しといて」などと使うようになりました。普通の畳の上でやるのだって、座礼と言えそうですが、「立礼棚じゃない棚」という意味で呼べなくもなく、私自身、この頃、座礼としか言わなくなりました。続きはまた。
萍亭主