「写し」という言葉は、茶の湯の専門用語ではないかも知れませんが、しかし、茶の湯の世界では、非常によく聞かれる言葉です。
もっぱら道具の世界で用いられることが多く、いわばコピー商品とも言えますが、茶室の場合もよく使われます。写しと言っても、何から何まで、そっくりに作る場合は少なく、細部はいろいろ変わっており、中には、躙口の位置とか、相当に違っている場合もあります。外観は特にそうで、露地との関連もあり、見た目もそっくりというのは、なかなか無いと思われます。どちらかというと、間取りが同じ、というのが共通面とも言え、何々型とか何々タイプというふうに理解した方が良いのかも知れません。つまり、その間取りの典型的な茶室が、写しの大元になりやすいわけで、一畳台目の今日庵、三畳台目の不審庵、燕庵、四畳半の又隠、広間では残月亭や寒雲亭などが写しの元になる事が多いようです。写しを作るということは、その茶室が気に入って同じ物を持ちたいという気持ちの現れですが、大抵は師匠である家元の所にある茶室と似た物を持ちたいという、流儀的欲求といいましょうか、そういう気持ちが根底にあるようです。ですから、例えば、今日庵の写しは裏千家の門人が、燕庵の写しは藪内流の門人が建てる事が多いものです。写しは、それぞれ独自の庵号を持つものですが、中には、ただ又隠写しの席とか、そういうふうに呼ばれるものもあります。勿論、写しと一概に言っても、完璧に写しているものは、ごく少なく、それぞれ、何らかの新しい好みも入っていて、例えば、窓の位置が違うとか、躙口の位置が違うとか、中柱の材木が違うとか、本歌にはない貴人口があるとか、屋根が違うとか、あえて「写し」と言わなくてもと思う事がありますが、何々の写しと言えば、間取りのイメージも浮かびやすく、理解しやすいという事なのでしょうか。それだけ、オリジナルは、個性のある茶室と言えるのでしょう。
写し自体が、名茶室として、よく知られるものが多いのは、燕庵の写しではないでしょうか。三畳台目に、一畳の相伴席(鞘の間)がつく独特な構成は、その間取りさえ備えていれば、他が多少違いがあろうとも、燕庵写しとして認識されやすいといえます。大徳寺三玄院の篁庵、妙心寺天球院の蓬庵、尾道市の浄土寺の露滴庵など、それぞれ有名ですし、勿論、皆、藪内流に縁があるわけですが、そういえば、会津若松にある麟閣、あれも完全に燕庵形式ですが、少庵好みとされていて、写しとは呼ばないようです。いずれにせよ、この燕庵形式は、人気があった事がわかります。続きは次回に。
萍亭主