懐石で使う生臭物は結局、魚が主流で、肉は鳥以外見かけないようですが、近代、その中でも多く使われるのは、鴨のようです。
普通、日常食の中で、最もポピュラーなのは、いうまでもなく鶏ですが、どうも鶏肉は、それほど茶懐石ではお目にかからない、私の乏しい経験ではご馳走になった事がなく、我が家でも使った記憶がない。これは多分、鴨の方が日常でないだけに、ご馳走感が出しやすいからでしょうか。東都茶会記など、近世数寄者の記録を読んでも(実は、懐石のところは、つい読み飛ばしがちなので、断言しづらいのですけれど)、やはり、鴨が多く、鶉なども使っていますが、鶏はあまり記憶にありません。考えてみると、使われる鳥肉も種類は、そう多くないわけです。それは、特に現代では、飼育・養殖したもの以外、ほとんど食材に使用しないわけですが、これが昔の茶の湯は違うのですね。
利休百会記(千利休が天正18年から19年にかけて催した茶会の記録)を見ると、その使用している鳥の食材の多様さにびっくりします。会記の最初に載る、八島久右衞門と草部屋道設を招いた茶事では、鶴が出されていますし、白鳥、雁、鴨、鴫、雉が、汁(椀盛、つまり今なら煮物椀)として供されています。小鳥という表記のものも何度か使われています。雁が一番多く使われており、次が白鳥のようです。勿論、鯛や鱈とか、大根・冬瓜とか、牡蠣、、平茸、納豆汁、お客が僧侶だと、菜とかそういうものも多いのですが、鳥類も結構使われているのです。他に「せんば入」という料理が、何回か出されていのですが、この素材に、鶉、雲雀、鳩、小鳥(何となく雀じゃないかと思うんですが)が使われています。「せんば入」とは、本の註釈に依れば「鳥の胴から菜を入れ煎じ、煎り酒仕込み煮てさっと吹立つ時、その儘あげ、又にんにくを少し入れその儘あげ、後作り身をいれ、だしさまに酢を少し加うるなり。又下汁醤油酒にて仕込、魚鳥の作身を入れ煮たて出すも、せんばという(料理大全)」とあって、今で言う焼物代わりに出されたようです。鳩はフランス料理で出される事がありますけれど、雲雀なんて食うのかいと思いますが、この時代、懐石は、現代よりずっと野性味があったようです。今の懐石のような一汁三菜と決まっているわけでもなく、豊臣秀吉が来た時は、一ノ膳、ニノ膳で供するというような自由な時代ですが、今、この利休の懐石を再現しようとしても、食材入手の面から絶対無理でしょう。ジビエ料理専門店ならどうかわかりませんが、それでも鶴(種類にもよるとはいえ、ほとんどは天然記念物か保護生物のはず)なんか、絶対無理!もっとも、これらの食材が、今の日本人の口に合うかといえば、これまた?ではありますが。
萍亭主