夏休み中、暇に任せて「半七捕物帳」を拾い読みしていました。
ご存知、捕物帳の先駆で、作者岡本綺堂は、「修善寺物語」など劇作家としても、怪談物作家や俳人としても著名で、特に時代考証にも明るく、凡百の捕物帳と比べ、その辺は信用が置けます。
七十ほどのエピソードの中で、茶道具屋が登場する話が二つある。一つは、茶道具と言っても、狩野探幽の掛軸にまつわる話で、あまり茶の湯臭くないのですが、もう一つ、「吉良の脇指」というのに、私には面白い話が出てきます。
番町で起きた主殺しの殺人事件に絡み、主人公の目明かしの半七は、捜査のため、船で深川から行徳(今の千葉県市川市、メトロ東西線の行徳駅付近)に行きます。ここで宿屋で一泊(今じゃ考えられません)。そこで顔見知りの下谷御成道で茶道具屋をしている遠州屋才兵衛と泊まり合わせます。才兵衛は成田山参詣の帰途で、翌朝、半七の行く堀江(現在の浦安市堀江)の方に自分も用があると途中まで同行します。犯人の情婦の実家が堀江にあり、そこを探れば何か手掛かりがあるかもという目的ですが、半七は、堀江の干潟で、白い雁の群れと、何か探し物をしている才兵衛を目撃します。情婦の実家では、女は帰っておらず江戸で商家に奉公していると教えられますが、そこに才兵衛が顔を見せ、女の奉公先は才兵衛の店と知ります。しばらくして、浅草聖天下で才兵衛が殺され、半七は、犯人は情婦の男(主殺しの犯人)と睨み、女を尋問します。主殺しの凶状持ちと関係ある女を雇い続けていたのは、才兵衛と女が色恋関係にあり、犯人がそれを嫉妬しての凶行という半七の見立てですが、女は才兵衛が自分を手放さなかったのは、商売の欲のため、雁の羽のためだと言います。「雁の羽?」「茶の湯で三つ羽箒に使います」。半七は世間の事に全て明るい男として描かれていますが「茶事には暗く」、降参して説明を求めます。本文を引くと「堀江の洲(干潟)にはたくさんの雁が降りる、そのなかに白い雁のむらがっているのは珍しくないが、稀には斑入りの雁がまじっている。茶事に用いる三つ羽箒には野雁の尾羽を好しとするが、その中でも黒に白斑のあるのを第一とし、白に黒斑のあるのを第二とし、数寄者は非常に珍重するので、その価も高い。ひと口に羽と云っても、翼の羽ではいけない、必ず尾羽でなければならないと云うのであるから、それを拾うのは容易でない」。女の実家は、それを沢山拾い集めていて、それを知った才兵衛は、女を大切にし、実家から羽を買い取り、この前、堀江に行ったのも、その交渉と羽を拾うためだと云うのでした。
私が面白いと思ったのは、岡本綺堂という人は、必ず何か出典があって書く人で、この三つ羽箒に関する講釈も、何かの茶書から引っ張ってきたのだと思うのですが、私は大体、羽箒に暗いのではありますが、こんな話は知らなかったので、へえ⁉︎だったからです。
それと、現在でも浦安には、潮干狩りが出来る干潟など残っていますが、雁が群れをなして降りるなどという光景は、見られないようです。昔は羽箒の材料も東京の近所で手に入れられたんだなあと、時代の移り変わりを、当然とは言いながら感じます。
半七捕物帳の本筋の話はご紹介しませんでしたが、あしからず。
萍亭主