茶の湯に関わる人なら、よほどの初心者以外には「箱書」という用語をご存知だと思います。ある種の権威の象徴ですから。

    もっとも、「箱書」を全く別の意味で使う社会もあります。映画やテレビドラマの世界でシナリオに関して使う用語です。最初に企画書という、主題や狙い、大雑把にどんな感じのドラマかという説明の書類があり、企画が決まれば、粗筋に当たる梗概が書かれます。原作があれば、その要約ですね。そして監督やプロデューサーとの打合せのために、具体的に物語がどう進むのか、シーンを順に書き、そのシーンの概要を書きます。これを箱書と呼びます。そして実際のシナリオを作る。梗概からすぐシナリオということもありますが、手直しが少ないように「箱書を書いてよ」とプロデューサー達に言われたら、シナリオライターは書かねばなりません。この場合、執筆料は発生しませんので、そこは茶の湯の世界と違います。

    本題に戻って、茶の湯世界の箱書は「書付箱」「極め箱」「共箱」に種類が別れます。

「箱」の字は、「ばこ」と発音するのが一般的です。

    共箱は、その品の作者が、俺がこの品の作者だ!という証明書であり、大切なものですが、他とはちょっと意味合いが違い、人によっては、これを箱書の中に含めないという事もあります。書式としては、箱の蓋表に作品名(右上の位置に)と作者名(左下の位置に)を書く、蓋表に作品名を書き蓋裏又は箱側面にに作者名を書く、箱の底に箱表と同様に作品名と作者名を書く、箱側面に箱表同様に作品名と作者名を書くの四種類が一般的です。後ろの二つは更に書付を書く場合の為であることが多いようです。なお、作者名は、雅号、窯名、屋号、工房名などのこともあり、姓はあまり書きません。名の下に印を押すのが普通です。共箱は執筆料は発生しません。

    笑い話ですが、昔、大分の田舎の怪しげな道具屋に立ち寄った時、ろくな物もなく、立ち去ろうとしたら、「遠い東京から来たんじゃから、とっておきの物を見せてやろう」とゴテゴテした香炉を持ち出し、「野々村仁清じゃよ」まではいいが、得意そうに「しかも共箱じゃ」には、思わず顔を見てしまいました。売りつけるため?でもなさそうで、かなりのご老人ですが、プロがそんなことを言うとは!と呆れて、早々に逃げ出しましたが、考えてみると、その共箱とやらを拝んでおけば面白かったかもしれません。

   共箱は作った人に作家意識がないと、当然生まれません。陶工で、単純な窯印でなく自覚を持って作品に印を押した最初は、野々村仁清だと言われますが、その仁清にしても、尾形乾山にしても共箱はありません。楽家が四代一入(17世紀後半)から共箱がある(あまり数は多くはない)のが古い方で、工芸家の地位が定まり、需要も増えた18世紀後半くらいから、やっと普遍的に共箱は出来たと思います。つまり古い品の鑑別が難しいのは、作家も分からない(職人ゆえに)という点も含め、共箱のなさも関係しているでしょう。次回は極め箱について。

         萍亭主