天佑庵と同じ、都指定文化財の一円庵は、池之端の江戸千家家元邸内にあります。
この茶室は、元は関宿藩久世家の下屋敷にあったという伝承があります。久世家は徳川家の譜代大名として、五万八千石を領し、歴代で四人の老中を出すなど権勢ののある家でした。下屋敷は今の清澄庭園だったので、そこにあったものでしょうか。屋敷自体は明治11年に岩崎弥之助に売却されていますが、現在地への移築は、それより前なのでしょうか。日時はわかりませんが明治初期に、江戸千家七代家元蓮々斎の時に移築されたそうです。江戸千家流祖川上不白は、大勢の大名を弟子にしていますが、久世家の名は門人帳にないようなので、どんな関係で移築されたかも不明です。
もっとも、今の江戸千家さんでは、この説を疑問視されているようで、正直言うと久世家からかどうか不明というお立場のようです。なまじ権威づけをしないのは素晴らしいと思います。
この茶室は、付属する寄付も一緒に移築され、その素敵な寄付の柱には「三冬古木秀九夏雪花飛」という不白の筆跡が彫られているので、不白好みか、少なくとも関連のある茶室なのは確かでしょう。茶室は侘びた平三畳台目で、こういう席の特徴で、正客からは少し点前座が見にくい気もしますが、奇をてらったところのない、感じの良い席です。
この茶室が、何故前述の「現存茶室目録」に載らなかったのか判りませんが、前に書きましたように、家元系の茶室は意識して省いているようですので、その例かも知れません。いずれにせよ、東京の古い茶席の中で、これは珍しく江戸生まれ江戸育ちの茶室ですね。ここで、家元が月釜をされています。基本、社中対象のようですが、他流も拒まれてもいないようなので、御縁を見つけられるのもいいかと。家元川上宗雪宗匠は優しい素敵な方です。
萍亭主