実験的企画、というかとりあえず踏み切ったのはわれながら偉いと思うってはなし。 | 陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

陽炎の帯の上へちらりと逆まに映る鴉の影―どーすかΩ

この部屋の中にいるヤツに会いたいのなら もっと、寿命をのばしてからおいで

「…と、いうわけで、とりあえず僕たち三人はこれで

いいことにしよう。」

「ま、いいんじゃない。」

「俺も異存ない。」

 それじゃとりあえずカメラの視点は僕が持つってことで。

「へえ、テレパシー!」

 地の文と自由に会話してるのってややキモイよな。

「それはいいとしても人の文体、いや、語り口を真似するのは非常にもどかしいな。」

 まあね。今のを僕が言うと「それはいいとしても人の文体、というか語り口を真似するのはすごくすぐったいね」というあたりに落ち着く。

「特に「非常に」のところが少し力んだ。」

「まあおいおい慣れるでしょ。つーかキャラかたまってないから、というよりどうでもいいと思ってるから誰が誰やらわからないっていうのはそうだと思うけどさ。」

 はっきり言ってしまえば設定なんてどうでもいいのさ。僕らに必要なのはただいくつかの精神的陥穽の構造をシュミレートできる「そこそこの物語」なわけだからね。と、ここまで地の文でもテレパシーで会話してるから描写説明一切なし。

「必要なら既にあるはずだろうな。」

「あたしもそう思う。つーか、ん…、「つーか」っていう口癖だってことにとりあえず今決めたから多用するけどさ。とりあえず「紅一点」はやってあげるよ。えーと、こう書くと、…失礼、こういう話し方をすると作品以前にこんな存在が先行しているかのように聞こえるけれど、それはまあマジックってことで。」

「で、何で「紅一点」が必要かって言ったらさ、押井守的な「三角関係」も考えてみたいのよね。どう?いいかな。」

「俺、って、えーと、自分は一人称「俺」でとりあえず差別化しただけという悲しい立ち位置なのだが、特に異存ない。後語り口が固い、ということにした。とりあえず差別化だな。個体を立てるのに必死なのだ。」

 まあ考えながらことをすすめてるからね。中身もクソもない、その通り。繰り返すが僕たちに必要なのは、ことがとりあえず進行することさ。

「えー、つーか主人公が気障キャラだと感情移入しにくいんですけど。」

「お前こそツンのイメージがやや古くはないか。」

 まあまあ。どうせキャラなんて融通無碍の有為転変。誰かさんの気が変われば変わっちゃうさ。僕一人で書く、じゃない、においてことが生起し行くわけでもないしね。そこはまあきっとコンプレックスが支えてくれるさ。

「そうかな…そうかもね。」

「口調固いキャラが相槌打つのはどうも反応鈍くていかん。」

 まあほんとにどうでもいいや。それより…。お互いの二人称決めようぜ。

「あ、それならあたしが決める。えっとね、地の文君が「三波」で、俺君が「戸塚」、そいであたしが「伊東」。どう?」

「それは皆わかるのか。」

「んー、たぶん「伊東」でわかると思う。つーか、別にそれはどっちでもいいんじゃん?」

 よし、決まり。最初は「飛ぶ教室」の五人の性格をそのままコピーするつもりだったんだけどさ。むしろ名前で三人にした、というよりもそうなった。本当は五人くらいを主体的に動かす群像劇にして「化かし合い」に挑戦したかったんだけどさ、ちょっとむつかしいかと思ってピヨった。ほら、結局のところいくつかの人格を描くということは、それぞれに自分の要素を分け与えることになるわけで、それはまずは三つかな、と。だから、三人がそれぞれ勝手に動いて、それが一つの話を作っていくってことにした。

「つーか、ホントにどうでもいいです。」

 あ…そう。んじゃ、ばいなら。