水色の建物の、入り口のアーチのところで、
小さなおばあさんの話しを聞いていた。
怖い、民話のような話しだった。
* * *
あるところに男がいた。
彼は、なんだったか、自分の醜い欲望の為に、
鳥の国に行くことにした。
鳥の国は、地下にあった。
彼は、不思議な頭巾をもっていた。
頭巾はかぶると、耳をすっぽりと覆う。
そして、声が聞こえてくる。
頭巾は何でも知っているから、何でも、教えてくれる。
彼は、鳥の国の住人に囲まれた。
鳥の国の住人は、よそ者を好まない。
彼は、頭巾をうまく使って、鳥の国の人々を騙した。
鳥の国の人々は全く騙されてしまって、
彼に、あらゆるものを与えた。
彼は、欲望を満たして、地上に帰ることにした。
でも、すっかり全てに満足して、頭巾を落としてしまったんだ。
落ちた頭巾を拾った、鳥の国の住人は、それをかぶってみた。
そうして、全てを知った。
それから、男の姿を見た人間は、いない。
* * *
おばあさんは、その男を、僕と混同していた。
どうやって戻ってきたの?
残念だけど、僕にもそれはわからないんだ。
でも、ひとつだけ、わかることがある。
不思議な頭巾は、それをかぶった人が、
知りたいことだけ、教えてくれるってことだ。
だから、男は自分が頭巾を落とすことを知ることができなかった。
あれ、それがわかるってことは、僕がその男だったのだろうか?
じゃあ、一体どうやって僕は、ここに戻ってきたんだろう。
それから、これはおばあさんには言わなかったんだけれど、
どうして、おばあさんは、この話しを知っているんだろうか。
男が帰ってきていないのなら、この話しは誰も知らないはずなんじゃ
ないかな。
いろいろな出来事の輪郭が滲んで、混ぜ合わさってしまっている。
わからないけれど、世界の繊細な襞を塗りつぶして、簡単に「わかって」
しまうよりかは、ずっといいだろう、と、思う。
僕の手元には、頭巾がないから。