「君はさ、僕のことを好きって言ってくれる?」
「はい・・・。好きですよー?」
「いや、違うんだ。それはもちろん言ってくれるかも
しれないけど、その、なんていうか「本当に」そうだって
言って欲しいんだ。」
「うん・・・?」
「君が僕を愛してくれるように僕も君の事を好きだって言える。
だけど僕はもっと深いところ・・・もっと奥の方にある、
暗くて熱くて痛い・・・もっと遠くのそこを越えた先のところでも
そうだって確信してる。」
「大きな流れがあって二人が流されそうになってる。
僕はこちら側の岸に近い。君はあちら側の岸に近い。
足もつかないし体力はそろそろ限界。寒さで唇も青くなってる。
一度岸まで戻れば助かるけど二人はきっともう会えないと思う。
流れはそれくらい激しくて大きいんだ。
心中すればいいかもしれない。それは美しいだろうね。
だけど、死ぬのも別れるのも答えじゃないと僕は思う。」
「・・・。」
「まだ答えはわかっていないんだけれど、
たぶん大丈夫なんだ。」
「そう?」
「うん、それは確かなんだ。」
「でも・・・
君はそれから先の言葉を続けられない。
少し潤んだ君の瞳が、優しく、細くなっていって
やがて、閉じられる。
月に照らされて白く輝く湖。
ふーっと深く息をついたような、一陣の風が吹く。
漕ぎ手を失ったボートは湖を当て所なく
ゆらゆらと漂っていくだろう。
はじまった波紋は何かの不思議な音楽みたいに
あざやかな色を奏でて、進んでいく。
進むたびに一番古い音が一つ抜け落ちて
新しく転がり出た音符に同じ色はない。
僕は左手で耳骨のブレスレットを探り当てる。
左手の指1、指2、指3、指4はしばらく迷っていたが
結局、耳骨を適当に投げ捨てた。
指5はただあたふたしているばかりである。