南木佳士の「小屋を燃す」(本を読んでみてはいかがですか?Part129) | 兵庫県健康生きがいづくり協議会 ニュースと行事予定

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 「南木物語の最終章」と本の帯に記された作品をご紹介します。

この後著者による小説作品はありませんので、この2018年の作品が本当に最後の小説なのかもしれません。

 

 社会生活を営む上での役割を終えた五人の男たちが日々の楽しみを語り合うための小屋を建てたのは六年前であった。

それから半年して、茸取りの達人の甲さんは心筋梗塞で亡くなり、二年前には今も解体工事現場で臨時の作業員をしているこの集りの中心的人物である丙さんに高度な脳の委縮が見つかり、昨年の夏には鮎釣り名人で山を自由に駆け回る自衛隊隊員と目される乙さんが川で転倒して急逝してしまうのである。

 

 安住の地として建てた小屋であったが、時の流れはその小屋をも見逃してはくれず、小屋そのものも白アリに侵され、解体せざるを得なくなった。

大人の秘密基地として十分に役割を果たしたその小屋は残った三人によって解体されて行ったが、廃材が薪として半ば燃やされようとしているときに、西方浄土の二人も雪の中で昔と同じように仲間に加わるのである。

それは残された三人の願望でもあり、この語り手の過ごした六年間の思いが大人のファンタジーとなってこの物語を語るのである。

 

 廃材の薪を燃すことは、これまでの六年間の記憶を消すことではなく、亡くなった仲間への鎮魂の送り火ともなっているのである。

語り手はこの小屋と仲間がいたからこそ、平安で安寧な日々の生活を送れたことを感謝したかったのであろう。

この小屋がなくなってしまっても、西方浄土の二人とは繋がり続け、残った三人はこれまで通りの日々を送るのであろうことが感じられるのである。

また、そうありたいとの思いが、作者がこの作品を書き上げて小説の筆をおこうとしたことにも表れているものと思われる。

 

 この「小屋を燃す」と題された生者と死者の境を超える私小説集には、この「小屋を燃す」の他に、四十年務めた病院を定年退職する話の「畦を歩く」、男五人で畑の隅に小屋を建てる話の「小屋を造る」、高齢患者から処女懐胎の話を聞くという話の「四股を踏む」の三篇が納められています。南木作品の総決算の作品を手に取ってみてください。

以上