ポーンホーン | 手のひらの中のアジア

ポーンホーン

ポーンホーン。


地図上でその名を目にした以外は何も知らない。どんな人たちがそこに住んでいて、その町がどんな空気に包まれているのかも。


ヴァンビエンとヴィエンチャンを結ぶ国道13号線上の途中にあるこの町を、おそらく多くのツーリストが素通りするだろう。僕がこの町を訪れたのも、一日走った結果の到着地点がたまたま「ポーンホーン」であったにすぎない。


しかし、何の意図もなく、少しの期待も持たずにたどり着いた場所が、居心地の良い、格好の場所であったりもするのだ。


夕方、町の通り沿いの食堂で食事を取ろうとテーブルの脇に自転車を立てかけて座っていると、隣の席や向かいに座っていたおじさんたちが話しかけてきた。


「どっからきた」


一人が僕に訊ねた。


日本からだと答えると、


「おぉ、日本か!!ニプン(日本)とラオは深い絆で結ばれている!!」


おじさんは自分の右手と左を強く握りしめて僕の方に見せると、うんうんと頷く。


「もちろん!!コイ ハク ラオ だよ、おじさん」


僕はラオスが好きだよと告げると、おじさんもまた言う。


「おぉ、コイ ハク ニプン だ。ハッハッハ」


そんな様子を見ていた周りの人たちまでこちらのテーブルへ移ってきて、一人一人ビアラオで乾杯する。興味はつきないのか、旅のこと、自転車のこと、結婚相手のこと、日本料理のこと、日本のこと・・次から次へと質問が飛んでくる。悪い気はしない僕も、片言のラオ語でそれらに答えながら、つがれたビールを飲み干す。いつのまにか、例のごとくラオラーオのまわし飲みまで始まっている始末。


その日の僕は相当に疲れていたこともあったのか、気がつけばベッドの上、時計を見ると朝の5時半だった。


昨夜後半の記憶が見事に飛び、いつどうやって宿に戻り、部屋を空けて電気をつけ、ベッドに横になったのかもわからなくなっている。


それでも「いやぁ、楽しかったな」、そんな感覚とともに、何も期待せずにしてたどり着いたこの町での滞在を良しとするのであった。