なんというか、トラブルはトラブルを友達にして、
大挙してやってくるんだなあとか。

平和や、ささやかな恋とかを糧に、
トラブルはやってきて、
人生をむさぼっていくとするなら、
トラブルと向き合うことそのものが、
人生なのかもしれないなあとか。

まあでも、俺って多分本質的に能天気なのかもしれないな。

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『あの日に還りたい 十六話』

小夜が珍しく、絵を見に行こうと行った。
チケット貰ったんだよ、好きなんでしょ?絵?

そう言って、

僕らは六本木の美術館に行く事になる。


「小夜は美術館なんて行くんだねえ?」

「私、美術館とかよく行くよ?」

「そうだったんだ。」


その日は静かに雨が降っていた。



「秀樹と最初に学校がある街以外で待ち合わせしたのが、

此処だったよね。」


「え、それは2回目だろ?
1回目は別の街だったじゃんか?」


「あれ?そうだっけ?」

小夜は悪戯っぽく笑っていた。


「ついでに言うと、その時小夜は、
2回予定をリスケして、がっちり1時間半遅刻してきたけどな。」

「忘れちゃったよ。」

小夜は悪戯っぽく笑っていた。


地下鉄から地上に向かい、
花屋だか、本屋だかを横目に見ながら、
小夜は傘を差す。

美術館への道のりの中、
小夜は突然くるりと身を翻して、僕にいった。

その日の小夜は、スカートではなくて、
ショートジーンズだったのが残念だけれど。



「そういえばさ、私付き合う事にしたんだよ、

昔話した幼馴染と。」



「そうなんだ、よかったね。」

小夜は、無表情だったし、
僕は微笑んでいた。

ほんの2秒くらい、小夜は僕の顔を見て、
先を歩きだす。

僕は張り付いた笑顔を元に戻すのに必死だった。

ショックは突然やってくるのではなくて、
その日の僕を徐々に蝕んだ。

シーツに零れた血の跡みたいに、
気がつけば、シミは広がっていった。
乾いたところから変色して、とても嫌な黒になっていた。


そして僕らは絵を見る。

何を話したのかは覚えていない。

どんな絵があったのかも覚えていない。

昼に待ち合わせて、
20時くらいまでの間、僕には殆ど記憶がなかった。

「じゃあそろそろ帰ろうか。

なんか秀樹も今日は機嫌悪いみたいだし。」

そう小夜が言うまでの数時間、
僕には殆ど記憶がなかった。


何枚かの絵に使われていた、
ベルベットを表現する緋色と、
地面に刺さった剣の照り返しの白、

その断片的な色と、美術館特有のカビっぽい匂いだけが、
僕の脳裏には残っていた。


気がつけば、
僕は、小夜の差し出した傘に収まって、自動人形の様に街を歩いていた。

僕の右半身はぐっしょりと濡れていたし、
小夜の左半身もぐっしょりと濡れていた。


小夜の言葉と共に、覚醒した僕は、
小夜の言葉に足を止め、この春から今に至るまでの事を、
思い返していた。

坂で見た、小夜の顔を思い出していた。

一番初めに会った時の躍るような小夜を思い出していた。

細かな会話の断片が、いくつもいくつも降り注いで、

全ての事が、小さな刃となって、僕を苛んだ。


「なあ、小夜、

僕と初めて会ったとき、なんで小夜は喜んでいたの?

あの時、何があったの?」


「初めて会ったとき。」


「そう、あの屋上で初めて会ったとき、
小夜は僕に見つかるまで、とてもうれしそうに小躍りしてたじゃない。」


「…覚えてないよ。」


「そうか。」


「今日はそろそろ帰るね。」


胸に詰まる思いが、
物理的な重さとなって、僕を締め付ける。

その重さを吐き出すかどうか、
僕は、きっと、美術館からずっと悩んでいたのだと思う。


「小夜、僕と付き合ってくれ。」

そういった時の、泣きそうな小夜の表情を今でも覚えている。


何度か何かを言おうとして、

その都度止めて、
小夜が口にしたのは、


「なんで今更なんだよ。」

そんな言葉だった。


僕らは、雨の中、暫くそうして見詰め合った。


「もう返事しちゃったんだよ…」


そう言って、小夜は笑った。

「そうか…。」

僕らは、改札をくぐり、

途中の駅で小夜は降りていく。

その日小夜は、一度も振り返らずに去っていった。

でも、小夜にしてみれば、電車に乗って去っていったのは、
僕だったのかもしれない。

今日僕らが通り過ぎた絵にしてみれば、
去っていったのは、僕らだったのかもしれない。
こうして僕らの周りにある色彩だけは、
日ごとに替わっていったのに、

その変化ほどには、僕らは変化していかなかった。

僕は相変わらず小夜に惹かれていたけど、

小夜にまつわる様々な、何故?に何一つ回答を見出していなかった。

どこかの直情的な女性が、
”女は子宮で恋をする”とか言っていたけれど、

小夜の子宮は、外部的に衛星軌道上で地球を巡回しているか、
僕には、男性として興味がないのかどちらかとしか思えなかった。


「小夜は子宮で恋するの?」

「なにそれ、どういう意味?」

「さあ?」


「ねえ、もう少しゆっくり歩いてよ、
私は秀樹が思ってるより、ほんとうはずっと歩くのが遅いんだよ。」


そうして僕は小夜より一歩遅れて歩く事にする。

小夜の足は、おっぱいに比べると実に細くて、
僕は、めったに見ない後姿を無遠慮に見続ける。


「小夜って後姿きれいだなあ。」

「それって顔はきれいじゃないってこと?」

「そんな事いってないじゃん。」


後日平然と言われた事がある。


「男の人のかわいいとか、きれいとかって、

挨拶みたいなもんでしょう?」


「そこは断固違うと言いたいね、

他の男がどうかなんて僕は知らないけど、

僕は、キレイだと思った、かわいいと思った子にそういうけど。」


「ふーん。」

多分。
多分、小夜のふーんには、僕が思うほど意味はなかったんだと思う。

返事をしなくてもいいくらいのところに、
わざわざ相槌を打っただけなんだろうけど、

もう十分に小夜に恋してた僕は、
そのころ小夜の、ふーんに、一体どんな意味があるのかについて
考え続けていた。

答えの出ない、
ある意味では、答えの存在しない疑問に、

喜んでみたり、悲しんでみたり、怒ってみたりして季節を過ごした。


「お前さ?昔言ってたよな、
一ヶ月の間なにも起こらない男女は永遠に何も起こらないって。」

「言ってた。」

「なら、もうすでに小夜ちゃんとの関係は行き詰ってるんじゃないのか?」

「そうかもしれない。」


まあ、これはあくまでも僕の脳内での会話なのだけれど。


でも、もしかしたら僕は無意識に色々理解していたのかもしれない。

告白したら関係が壊れてしまうとか、
そういうことじゃない。

僕は、きっと小夜に振られても、
翌日から同じように屋上で小夜と話をしただろう。

彼女の事だって、
きっと僕は、小夜が仮に僕と付き合うのを了承したら、
即日別れ話を切り出したろう。


きっと。
きっと僕は、僕をとりまくこの環境の全てを気に入っていたのだ。

防壁の高い、それでいて僕の好みの女の子。
彼女なんだか判らない、僕の健康を気遣ってくれるかなり控えめな女の子。
学友なんて独りも居ない、好き勝手な思いを抱き続けられる学校。

全てが曖昧で独りよがりな世界を、
僕は享受していた。


そして更に正直に言えば、
僕はこの事に気がついたのは、
もっと、本当にもっとずっと後になってからだった。

僕が止まった世界で生きていたつもりだったけど、
世界中の人はちゃんと心と身体を動かせていた。


例によって鴉が僕に語りかける。

「じゃあ一つだけ質問するさ。

何故、君は小夜さんが付き合うのを了承したら、
彼女と別れるんだい?

ごくまっとうな意見を言わせて貰えば、

普通は順序が逆じゃないのか?」


僕は苦笑するしかない、
つまり僕の本質は其処にあるのだから。

一応14話ですが、
たまたま会社で植木の伐採してて書いてみました。
本編とは関係あるようなないような、
季節を夏までもどしたお話ですね。

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『あの日に還りたい 十四話』

学校に続く街路樹と植え込み、
その日は、そのメンテナンスの日だったのだろう。

沢山の業者がいっせいに、
植え込みをチェーンソーみたいな機械で刈り込んだり、
高枝バサミで、余計な枝を切り落としていた。

しかし、余計な枝というのも心底傲慢な表現だとは思う、
人が見て、邪魔な枝が、その植物にとって邪魔なのか、
一度本気でインタヴューをしてみたい。
人がどれだけ身勝手かという事について。

意外とあっさり、どうでもいいことだと応えられるのかもしてないけれど。


夏も盛りに入ろうという時期に、
そこかしこに、植物の体液の臭いで充満していた。

何気なく登校していく人々を見ながら、

僕は、これは血の臭いだと感じ、
少し気分を悪くしていた。

なぜ皆が、平然と歩いていられるのかが判らなかった。

もう、現実で殴り合いの喧嘩をしなくなって随分経つから、
口の中に残る鉄の味なんてのは、
歯医者から帰った後しか味わえない。

若しくは急いで食べたプリンの予想外の柔らかさに、
勢いよく綴じた歯が、
勢いあまって、頬の内側をえぐった時くらいなものだ。

もっともそれにしたところで、
友人と喧嘩した後の鉄の味と、
歯医者の後の鉄の味には、絶望的な差がある。

悔恨と後悔の狭間に味わう鉄の味は、
忘れがたい、”想い”の具現化だと思う。

今の小学生は、そんな味を知っているんだろうか。


僕はそのまま回れ右して、部屋へと帰る。

今日、講義の時に配られたプリントで、
僕は指を切った。
とっくに乾いた傷跡を、歯で再び引っかいて、

僕は血の味を口内に再現する。

ベランダで煙草を吹かしながら、指の血を舐め取る。

僕の後ろでは、彼女が雑誌を見ていた。
真夏なのに、湯気が立ち上る紅茶を飲みながら。


「どうしたの今日は?」


「なんか並木道で、そこらじゅうの植え込みの伐採しててさあ、

あの夏の芝生で寝転んだ時もするけど、
植物の体液っていうの?あの匂いってさあ、

なんか血の匂いみたいで、気分悪くなって帰ってきたよ。」


「ああ、それ解る。

時々みんな、あの匂いの中で無邪気に遊んでるけど、
あれって少し不気味だよね。

動物の死骸を見て、キモチワルイって人いるのに、

植物の体液の匂いで文句言う人殆どいないのは不思議だな。」


僕は、ぽかんとして、彼女の顔を見る。

「そんな事いうのを、自分以外に初めて聞いたよ。」

「紅茶飲む?」

「暖かい飲み物は、いらないよ。」

「そうだったよね。」

その日僕らは、
冷たい烏龍茶と、暖かい紅茶を並べて飲んでいた。

元は同じ葉っぱなのに、
どうして僕らはこうも違うのだろう。


そういえば、小夜が言っていた。
蝉の鳴き声にも種類があるのだと。

今年になるまで、

僕は東京には、ミンミンゼミしか居ないと思っていた。
でも、ヒグラシとクマゼミは違う種類で、
違う鳴き声で鳴くらしい。

小夜に教わりながら、耳をすますと、
確かにそこは複数の鳴き声がした。

「ミンミンいってるのと同時に、シーシーいってるのがアブラゼミだよ。」

鳴くと泣くはなぜ同じ読み方なんだろう。


翌日、屋上で同じ話を小夜にした。

「私はあの匂いを、別になんとも思わないけど、

でも、あの匂いが嫌って人だって、
ほんとうはいるかもしれないじゃない。

平気そうにしてるってのと、平気かってことは、
全然関係ないことだよ。」


「全然なんだ?」


「秀樹だってよくするじゃん、
私の受け答えを見て、ほんとは動揺してるのに、

”へえ、そうなんだ”って平気そうなふりしてるの。」


「へえ、そうなんだ。」


「ほらね。」


もうすぐ夏も終わる。
素知らぬ顔して…また上げ忘れた…

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『あの日に還りたい 第十三話』


その後、小夜と僕は、
随分と普通の会話をよくするようになった。

実は僕は絵が好きで、
いつか小夜を描いてみたいとか。

「でもまた裸を要求するんでしょ?」

「小夜は僕を理解してるよなあ。

お礼にラーメンをご馳走するよ。

で?モデルの件はok?」


「okな訳ないでしょ!?」


注文したラーメンができるまでの間、
何気ない会話を小夜とする。

「そういえば、僕らは会ったときから、
小夜と秀樹で通してるけどさあ、

小夜って俺のフルネーム絶対しらないよな?」


「知らないわけないじゃない。

xx秀樹でしょ?」


「え?なんで知ってるの?」


「なんで知らないと思ったの?」


「だって僕、多分一回も名乗ってないよね?」


「名乗ったんだよ。」


「嘘?」


「名乗ったんだよ。

結局さあ、私の事を忘れっぽいとかいい加減とかしょっちゅう言うけどさ、

ほんとにいい加減で忘れっぽいのは秀樹なんだよ。
私はこう見えて、結構色々覚えてるんだよ?」

そう言って小夜は柔らかく笑っていた。

ただ、間違いなく僕は名乗っていなかった。
その事は事実だ。

そして僕は一度だけ、小夜の苗字を呼んだ事があって、

僕は頭の中で、その漢字を描いていたのに、

口に出した時は、その名前を間違えていった。

その時小夜は、結構本気で怒っていた。

「私の名前は!…だよ!」
つかまあ、結局TDLにはいつたどりつけるんだろう…。

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『あの日に還りたい 第十二話』


もう街路樹からは全ての葉が消え去り、
路傍には、ほんの微かにその残滓を認める事が出来る季節、

僕は、小夜と並んでその道を歩いていた。

時折、寒空の下にランニングシャツで全力疾走していく、
陸上部だかの数人を除いては、
誰もいない道で、小夜と僕は話をしていた。

「でもさあ、小夜、
結局、例えば片親とか、複雑な家庭環境とか、
なんか社会的に問題のある家庭に育った子って、

やっぱり普通の人とは違った育ち方をすると思わないか?」

この問いに僕は、小夜がてっきり怒るかきょとんとするかと思っていた。

つまり、この質問は、
要するに八つ当たりで、こういう事をするから、
僕は他人に誤解されるのだとは判っていたけど、

同じようにこの質問は、僕にとっての祈りでもあった。


「そうだねえ。」

と、少し寂しそうな顔で答える小夜を見て、

ああ、この子には祈りが届くのかもしれないと思った。


だから僕は、色々難しい事を抜きにして、
小夜をデートに誘ってみた。

もう少しさ、暖かくなったら、
一緒にディズニーランドに行かないか?と。

随分と我ながら、色々飛ばしたなと想いつつ、

でも、

「いや、ディズニー好きなんだけどさあ、
一緒に行く人も居ないし、小夜もディズニー好きだろ?」

と、余計な一言で保険を掛ける僕について、
僕は僕自身に心底ウンザリする。


「いいよ?もう少し暖かくなったら。」

そう即答が返ってくる。

僕は躍った。

それこそ、秋口によく見た、
風にまかれた落ち葉のように。

でも、こう書くと、
なんだかとっても不吉な感じがする。

躍るついでに、
普段はしない、踏み込んだ質問を、

例えば、
でも、ディズニーだよ?例えば俺、
その気になって小夜にキスしちゃうかもよ?

なんていつもするギリギリの会話の後に、
ほんの弾みで、ならキスしていいか?と聞こうかなんて、

想像上のシミレーションをしている時、

小夜の携帯が鳴った、


嘘みたいなタイミングで。

小窓に出た着信先の名前を小夜は見て、
めずらしくその場で電話に出る。

「おじいちゃんが危ないって…。」

蒼白になった小夜の手を握って、
僕は駅までの短い距離を走った。

小夜の実家がある駅の側まで一緒に電車に乗り、
改札の向こうで僕は立ち止まる。

何も言えずにいる僕に、
小夜は少しだけ此方を振り向いて、残心を見せる。

「行って好いに決まってるから、早く。」

そう笑う僕に、
小夜は少しだけ安心したように駆けて行った。

一度だけ此方を振り返り、
手を振りながら走っていった。


其処から学校が、自分の部屋があるまでの駅までの帰り道は、
ほんとうに沢山の事が頭の中を行きかって、

じゃあそれがなんだったのかについては、
書く事もできない。

ただ、電車の窓から、
随分と大きな夕陽が見えた。

殆ど誰もいない電車の中で、少しだけ目尻が熱くなるのを感じた、

でも、涙は最後までこぼれなかったし、
なぜ泣きたいと思ったのかは、僕には判らなかった。

多分、僕は子供だったんだと思う。
多分、昔も、そして今も。
ん~ん~特にない…(笑

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『あの日に還りたい 第十一話』

この話を言い訳とするのか、タイミングの悪さにするのかは、
聴いた人に全権を委任するけれど、

それでも、僕は小夜への距離を詰めるという、
具体的な行動を起こしかけてはいたのだ。


「はあ…。」

「めずらしいね、溜息なんて。」


「なんかさあ、先輩に告白されたんだよ。」

「おめでとう。」

この表情では完璧に笑う僕の、内面の動揺を誰かに伝えたい処だけど、
こういう時、僕は恐らくほんとうに完璧な表情を浮かべてしまうんだと思う。

ある意味、防壁を高くめぐらせていた小夜のほうが、
圧倒的に、豊かな表情を浮かべる人間だった。

だから、僕が怒ってるときに、
よく誰かに、なんで笑ってるの?と言われるし、

誰か好きな女の子と一緒に居る事が嬉しくて仕方ない時に、
なんか怒ってるのかな?怒らせてたらごめん、って話になって、

「何に、ごめんって言ってるの?」

という流れになっては、相手と喧嘩になっていた。


「なんで告白されて溜息なんだよ?」


「だって、先輩の事別に男性としてみてたわけじゃないしさあ、

即答で、ごめんなさい、ってごくやんわりと断ったんだけど、

すごくショックだったみたいで、

なんというか、付き合ってくれないなら、
今まで良くしてきたことは、
もうしないぞみたいな事まで言われたんだよ。」


「そりゃあ溜息もつきたくなるわ。

何故かそういう低俗な回答をする人間は、
仮面を被ってる間に、より低俗な人間を騙し遂せるんだよね。」


「ん~、私の中では、
男友達というのと、男性ってのは完全に別物だからねえ。

それにそんなに先輩の事を悪く言わないでよ。」


今度は僕が口をつぐむ番だった。

なら僕はどっちなのさと尋ねない僕。

だって、僕の中ではまだ、
小夜と友達にもなっていないというのは、
前に話した通りだから。


ただ、この話がブレーキになって、
僕は、小夜に対しての距離感をつめるのを2ヶ月間躊躇してしまった。


いつぞやの想像上の女友達が言う。

「あんたはさ、人付き合いに致命的な欠陥があるんだよ。

相手との距離を、ゼロか無限のどっちかしか求めてないのね。

どっちも無理なんだよ、現実的に。
アンタが望むような関係はこの地球上の何処にもなのよ。

それなのに、頭だけはいいからさあ、
ちょっと人の気を引くような事はぽんぽん言える。

そうやって人を呼び込むことには才能があっても、

その結果をどうやっても、
いい方向に繋げられなくて、
結果的には、誰も彼もを不幸にすることしかできないんだね。

それに、そんな程度の顔しかしていないのに、
そんな程度の内面しかないのに、

なんでそんなに体裁を気にするの?

こんな屋上で独り燻ってるのは、
実は人目が気になって仕方ないんでしょ?」


怒るまでも無く、僕は同意する。

「ついでに言うなら、
僕の中での僕は、照れ屋で人見知りなだけだよ。

その事実をどうにか変えたくて、
僕は、悩んだ時は前に一歩踏み出す事にしている。

その必死な一歩を、誰がどう勘違いするのかなんて、

それは僕の所為なのか?」


「あ・な・た・の・所・為・なんだよ。

どうしてそんな単純な事が判らないの?」


「ふざけるなよ、これでも僕は僕なりに真剣に生きている。

それが他者にどう見えるかは兎も角、

少なくとも、周りに居る人間は、僕の都合なんて考えてくれなかった、

それなのに、周りは僕に、都合を求めるのか?」


「それが社会で生きるってことなんだよ。

その理不尽の中で、それでも生きてるんだよ皆。」


「にわかには信じられないね。

僕には、皆が好きに生きてる様にしか見えない。
その事について、僕は誰かに責められるなんてお門違いだね。」


「だから、あなたは一人だし、

付き合ってる相手とも、小夜さんとも上手く行かないんだよ。」




その時、僕は想像上の誰かに、
ここまで詰られるのなら、現実の誰かにこの話をすればいいとさえ思った。


僕はこうして、
小夜との距離を縮める事よりも、

”男友達のくせに、私に付き合いたいと思う雑多な中の男”
である事を避けた。

小夜に、もし、この事を客観的に聞いたら、

「あのねえ、どうでもいい男の所に3日と空けず行くかな?」

と、怒られたのだとは思う。



だから僕は、家に帰るまでの道のり、
誰も居ない道で独り言を言う。

「それでも勘違いするのは嫌だ。
小夜に迷惑と思われるのはもっと嫌だ。」


玉砕するのが怖いとかいう流行歌やら、漫画やらの一文を見て、

馬鹿じゃないのか?と内心思っていた自分だけど、
結局字面を変えただけで、思ってる事は全く同じだと、

やっぱり当時の僕は、なにもかもに全然気がついていなかった。


最近めっきり面白いゲームにも、アニメにも出会えません。
なんか面白い媒体誰か紹介してくれませんか?

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『あの日に還りたい 第十話』

そして僕らは、

僕と小夜は、カラオケに行っても、前ほど必死に歌わなくなっていた。

その事に小夜は違和感を感じていたのだけれど、

僕は、カラオケで歌う事よりも、

その当時の僕ははっきりと自覚していたわけではないけれど、

僕らの間に横たわる、
人一人分の隙間を埋めたかったんだと思う。


こうして僕らは、学内でもっとも低俗な話題から、
学内でありふれた、距離感をつめる会話をする事になる。

「私はさ、自分の本音が嫌いなんだよ、

だから、そんな本音の自分が居る事を判ってはいるけど、

お前のことなんか知らん!って無視するんだよね。」


「そういうもんかね、
僕なんかはむしろ、自分の本能のままにやりたい事をやるけどなあ。

というか、まあ、昔はね、
誰かが好きだと自覚したら、その気持ちを3日と我慢できなかったからな。」

”そうなの?
それってつまり、私にはぜんっぜん興味がないってことなの?”
とは小夜は決して返してはこなかった。

多分、この切り替えしの違和感が、
僕にとっての小夜の防壁の高さだったんだと思う。


「大体さあ?男の部屋に、遊びに行くだけって行っといて、
何もされないって思ってるほうがおかしいよね?」

「ごもっともだけど、
僕は、相手が嫌がるならそういう事はしないけどねえ?」

「ほんとかな?」

「試してみるか?」

「試してみる?」

「ごめん、やっぱ無理だわ。

小夜に下心ないの?って聞かれたら、0.05秒は悩むもんな。」


「宇宙刑事の変身かっての。」


「時々思うんだけど、
小夜って、ほんとに19歳なのか?

歌うアニソンとか、どう考えても時代ちがくないか?」


「実は38歳なんだよ。」


でも僕は、化粧を落とした時の小夜は、
ほんとは十代前半なんじゃないかってくらい若いことを知っている。

別にそれは、二人で既に夜を過ごしたとかそういうことじゃなく、

ごく稀に、小夜は洗い立ての髪から湯気がでるような勢いで、
この屋上に来る事があるからだ。

「眉毛だけ描いた。」
と笑う小夜は、大多数の女性がする言い訳を口にしながら、
恥ずかしそうにしているのだけど、

僕は、きっちりとアイラインを引いた小夜よりも、
殆ど化粧っ気のない小夜の顔が好きだった。



この子は歳の割りにはっきりとリスク管理を行なっている。

なぜ僕といるのかという事に回答は無いけれど、
明らかにリスク管理を僕に対しても行なっていることは、判る。


「ダイエットしないとなあ…。」


「そんな胸から痩せるような事はやめてよ。」


「判ってないねえ…、本当に胸のある子は、
胸からなんて痩せないんだよ。」


「え!?そうなの!?
胸から痩せて腹から太るって定番じゃないのか!?」


「私は、太っても痩せても胸のサイズ変わらないなあ。」


「幾つ?」


「F。」

にやっとする僕に、すかさず引っ叩かれた。

思わず答えちゃったじゃないか!

と、いつもより強めに引っ叩かれた。

その感触に、受け答えより喜んでいる自分を発見しながら。

「ある期間で、どっちが痩せるかを賭けようよ。」


「お、いいねえ、
何を賭けるの?」


「負けた方が勝った方のいう事をなんでも1つ聞く。」


「え、どこまで?」


「どんな事でも。」

小夜は少し真剣な顔をして、そして、
それはちょっと怖いから止めとく~と言う。

そして僕は、浅はかにも少しがっかりする。
どんな要求を自分がするのについて、僕は多分判っていたから。


つまるところ、
小夜の外見と内面に、僕はギャップを感じていた。

だから、またあの鴉あたりに問われれば、
恋の理由については判っているはずだと思う。

「僕は小夜の、目と胸と、表情と内面の不連続性に惹かれたんだよ。」

そして、小夜の顔をしたマネキンに言われるんだと思う。

「なら口に出して言えばいいのに。」


でも現実の小夜は、

「好きって気持ちに理由なんてないよ。」

そう言っていた。
ある意味それは、ごく自然で、とても残酷な回答に聞こえた。


誰かを好きと言う理由を自分の中で、言葉にするというのは、
自分で自分を縛る事なんだろうなと思う。

僕はこういう理由でこの子を好きなんだ。

自己暗示で自分を縛る僕と、
結果に対して自由な小夜は、
根本的に違う種類の人間なんだと思う。

「いずれにしても、僕はセロリとゴーヤと漬物が嫌いだね。」


「秀樹は好き嫌い多いよねえ、私はなんでも平気だな。」


そういえば、あの坂道での事は、
僕の口からも小夜の口からも出る事はなかった。

でも、冷静に考えてみれば確かに、
小夜が張っていた防壁は若干下がったはずだったのだ、

事実、僕らの会話の内容が変化していたのだから。

でも、その時の僕は、
バレーボールのネットの高さと、バトミントンのネット、
どちらが高いのかなんて全然判断がつかなかった。

どちらも同じ、飛び越せない高さでしかなかった。

テニスや卓球のネットくらい、その変化が判りやすく下がっていれば、
僕は飛び越せたのに!というのは、
いつだって、タイミングを逃した人間の言葉なんだと思う。

恋愛は惚れたほうの負け、

だとしたら負けている側は、
或いは、欲望の強い側は、
素手でコンクリートに穴を開けるように、地道な努力をする必要がある。

二十歳になる直前の僕は、どうしようもないほどにお坊ちゃんで、
世界の事なんて何も知らなかった。

自分自身の事も、
彼女の事も、
小夜の事も、

誰かを好きになるという事も。

しかし…なんか最近ノンリンクの方々が増えてきたなあ…と、

t様って…どなたなんでしょうか…
だいたい、私のblogにノンリンクで絡んでくれる方って、
リアフレか、ネットの知り合いだったりするので…。

さておき再開です、
最終回を変えようかなあとずっと悩んでましたが、
そもまま掲載、

それに併せて、1話に2行ほど文章を追加しております。

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『あの日に還りたい 第九話』


世界を構成する様々な事の大半を僕は嫌いだったけど、

秋に、僕の足下で割れる落ち葉が奏でる音楽と、
その感触は、とても好きなものの部類に入る。

銀杏の葉を踏みしめた時、
終わりかけた夏の間、どこか湿り気を帯びた感触であったものが、

時間と共に、硬さと音楽を生み出すのを、日増しに感じる時、
僕は秋を感じる。

そんな時は、無為に通い続ける学校への道のりに、
意味があるものを感じる事ができる。

でも、今年の変わり目に感じた事は、
やはり小夜への気持ちの変化だった。

足元で鳴る音の変化は、そのまま僕の小夜への心理変化だった。


秋になるまでの間、
僕は、それでも何もしなかった訳ではなかった。


「というか小夜、いっつも携帯なりまくってるし、
予定も埋まってるじゃんか?

やっぱり彼氏いるんだろ?」

随分と低俗な質問だと自分でも思う。


「ん~、彼氏ではないけど、幼馴染はいるよ。」


答えになってないと言いかけて、止める自分が居た。



小夜が来ない日の屋上に、僕はつまらなさしか見出せなくなった。

小夜が来る時間は、
大体決まっているのだけど、

来ないはずの時間まで屋上で僕は寝転んで、
酷い時には、星が見え出す時間までそこに寝転んでいたけど、

やっぱり、来ないであろう日に小夜は此処にはやってこず、

僕は、月と星の関係について考えた。

本当は絶望的な距離を持っている星と月が、
こうして僕から見れば平面的にすぐ側に在る事、

それはなんだか、屋上で会ってる僕と小夜の関係に良く似ていて、

どうして僕は、
半年もの時間があったのに、

僕らの間にある距離を、
詰めるどころか、量る事さえしなかったのかについて、
考えてみる。

そして、過ぎてしまった過去に対して、
色々考える事の無駄にすぐ行き当たり、

とっくに空になった煙草の箱を握りつぶし、
部屋に戻る。


「遅かったのね。」

部屋では彼女がご飯の支度をしながら待っていた。

なんだか、いよいよ罪悪感が僕の中で大きな形になってくる。

ただし、それは彼女に対してではなく、
小夜に対してだった。

配膳されるのは、
名前も知らない穀物が入った混じり物のご飯と、

野菜の皿が3枚ほどと焼き魚。

ほんの少しだけ救われるのは、僕も彼女も味噌汁が嫌いな事。

ただ、ここまで僕の好みと違う食卓に、
更に味噌汁さえついてきたのなら、
僕はこの彼女と既に別れていたんじゃないかと思う。

「ねえ、なんで君は僕に告白して、
ここでこうやって僕にご飯を作ってくれるの?」

自分の分の食器を洗い場に下げに、
彼女は席を立った。

その後に僕も自分の食器を持ってついていくのだけど、
彼女からは、何も返事はなかった。

半分ずつの食器を洗って、
彼女が口にしたのは、

「シャワーを貸して。」
という事だった。

水が、浴室の床を叩く音は、
雨の音に良く似ていて、

じゃあ、雨の日の空に映るのは、
一体自分のどんな気持ちなんだろうと考えていた。


随分と長いシャワーに、少しの不安と予感を覚えて、
僕は浴室の扉を開ける。
ノックもせずに。


短く切りそろえられた髪の向こうで、
彼女が泣いているのが解った。

かすかに震える背中は、とてもつるりとしていて、
声も無く、涙も見えない僕には、
なんだか背中をすべる水滴の全てが、
彼女の涙みたいに見えた。


「ずっと前、
中学生の頃、貴方の事が好きだった。

だから、同窓会で会った時に、
自分の中で、ありえないくらいの勇気を振り絞った。

貴方が私をあんまり知らない事は判っていたけど、

でも、美術館で貴方が同意の言葉を言った時、
私はとても嬉しかった。

だから、私は私のできる事をしようと思った。


それだけよ?」

あの時と同じく、彼女は此方を見ずにそう言った。

僕は、ごめんという言葉を危うく飲み込んで、

「いつもありがとうな。」

そう言った。

でも多分、その言葉に彼女はきっと、
もっと多くの涙を彼女は、零す事になったんだと思う。
本編と見せかけて、
また例によって、秀樹と小夜のトーク編

すいません、最後まで書いてあるのですが、
こっからは最後まで毎日12時に上げていきますゆえ…ご容赦。

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「なんでもいいけどさあ、

僕、タラシとか、嫌いとか言われまくってるわけだがどうしたらいい?」


「とりあえず、

窓を開けて空気を入れ替えて、

そのまま飛び降りればいいんじゃないかな?」


「うそでしょお?」


「嘘じゃないよ。」


「こう見えて結構、僕、
一途なんだけど?」


「彼女居ながら私好きとか言っといて、十分一途じゃありません、
本当にありがとうございました。」


「はぁ…まあ、いいけどさあ、

古参の読者で在らせられる、くっきーもんすたー様から、

『チャラいとタラシの違いって何だ?』
ってお題が着ております。


あのさあ!?blog設定童貞の僕に、そういう事聞く?
モテた事なんて人生ありませんよ!?
全くありません。

だって童貞ですよ!?

そりゃあ、昔は居ましたよ、

いきなり自分の局部写真を送りつけてきた基地外とか、

僕がオープンにしてたメアド晒したら、いきなり彼女気取りの人とか、

いきなり旅行の当日朝、見知らぬ男から電話掛かってきて、
お前はだれやってこっちが誰だ!?事件とか…


でも、それ、別に僕、一ミリも望んでませんし!?」



「は?なんですかそれ?

自分は屑女にはモテるんだぞ、すごいぞー、
僕スゲーって自慢?」


「いあ、違います…違うんです、僕の話を聞いてください。」


「早くして、
私、今、漫画みるのに忙しいから、可及的速やかに話を終えて。」



「そのネタ引っ張るよねえ…。

まあ、でも一言で言えば、

チャラいってのは結果が伴わなくてもいい、その人のありようだろ?

んで、

タラシってのは、結果的に泣かした女が一杯居るって事じゃないのか?」


「何をさもわかってます風に…、

小夜が正しい日本語の用法を教えてあげるよ、

やっぱり瀬戸の花嫁は面白いよ!


チャラいってのは、
”ちゃら”っていう俗語からの派生だからね?

勝負をチャラにしてくれっていうでしょお?
いい加減なもの、出任せって意味で、

つまりいい加減な男って事だよね。

それに対して、
タラシってのは、ほら、たらしこむの派生だし、

それは、女性を誘惑して弄ぶ事だよ。」


「弄ぶってのは、孕むと同じくして、みてるだけで興奮してくる漢字だな。」


「どちらかって言うと私は嬲るって字の方が直球だと思うけど。」


「強姦ってのはやっぱり、一度に3人以上しないとダメなのかな?」


「なんか語感としては、ゴリラみたいな女の軍団って気もするけど。」


「でも、やっぱりどこぞの小説じゃないけど、
萌えるってのが草冠に明るいなら、
蕩けるってのは、なんかもう、確かに物凄そうな趣があるよね。」

「つか、なんで漢字談話になってんだよ。

つまりあれじゃん。
僕が言ってる意味で大体あってるじゃん。」



「ということはあれだよね、
罪としては、やっぱり結果だしてるタラシの方が悪質だよね。」


「ちょょょっと待ってよ?

僕、そんな悪質な実績ないんだけども?

大体、実質やってない彼女みたいのが居るだけで、
小夜の手も僕は握ってないだろ?

此処で僕をタラシとか言ってる人たちだって、
絶対一度や二度、浮気したり二股かけたりしてるって!?」


「あ~でも、秀樹このまえ、
カラオケ行く道でよそ見してた私が秀樹にぶつかったとき、

多分、胸があたったんだろうねえ、
なんかしあわせそーな顔して、私の胸見てたけど。」


「それすでにタラシと関係なくないか?

そんなに俺の尊厳を地に堕とすのが楽しいのか?」


「昨日マゾだって言ってたじゃない。」


「い、言ったけども。」


「大体私がお題に回答したら今回終りじゃない。

回答者なんだからなんか捻りなさいよ?」


「ま、あれでしょ?

結局モテてウザイって思うのは、
実際モテる人だけだし、
大多数の人間は複数からコクられるとかないわけだから、

あの人頭いーよねーっていう時には、
もう敵意と、憧れの二択しかないっていうのと似てるよね。

実際に、その人がどう内面思ってて、
実はどういう行動原理があるかじゃなくて、

レッテル貼りってことでしょ。

事実、僕、モテてないし。」


「だから、結局他人の目にどう映るかで、

秀樹は結局、見た目軽々しいってことで、
自分が思ってるより、ダメな人間って事だね。」


「じゃあ、なんで俺といるわけ小夜は?」


「は?私別に、秀樹が好きとか言った覚えとかまるでありませんけど、

屋上に居たいだけなのに、
なんかいつも付属物みたいなのが居るから、
正直邪魔だなーって思ってるだけなんだけど。」


「ほんとに飛び降りた方がいいのかもしれないね…僕…。

ラーメン食べて帰ろ…。」


「あ、私今日は大盛りにしてもいい?」


「…、謎だねえ、小夜は…。」
17日時点でここまででストック放出。
今度ばかりは、ある程度まで話書きたいからな~…。
ほんとか?

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『あの日に還りたい 第八話』

そんな訳で、
僕らは、いや、僕は、
小夜という存在を長らく、何かと決めなかった。

あらゆる積極的な意味でも。
あらゆる消極的な意味でも。

友達以上恋人未満とかいうのは、
自分の立ち位置が、今何処で、どこに行きたいという願いがあって
初めて成立する言葉なのだから、

僕と小夜は、友達以上恋人未満でもなければ、
恋人どころか、友達ですらなかった。


きっと、当時の僕に尋ねたら、

「ん?小夜か?
友達になれたらいいなと思ってるよ。」

と答えたに違いない。

馬鹿げた話ではあるのかもしれないけれど、
半年くらいの間、屋上では3日と空けず会って、
一週間に一回くらいは、カラオケかラーメンをしていたのに、

僕は、小夜と友達になれたとさえ思って居なかった。

恐らくその距離感の、
絶望的な距離感のとれなさ加減が、
およそ僕にとっての最大の欠点ではないかと思う。

屋上で、初めて小夜に会った時の、
横柄さを選択できる僕が、
なぜ、仲良くなりたいと願う人にさえ、こんな距離感しかとれないのか、

カラオケボックスで、
人一人分の空間が、小夜と僕の間にあって、
そこを僕が詰めたとしても、
小夜は、少なくとも怒りはしなかったはずだ。


「じゃあ、なぜそうしなかったんだよ?」

何処かで見た、三本足の鴉が問いかける。


「まず、格好悪い事この上ないのだけど、
言い訳から始めさせて欲しい。

そうできない雰囲気を感じて居たんだよ。」


「君はさあ、
例えば、相手に行為が微塵もなければ、
きっとその距離を縮めていたよね?」


「その事について、逆説的に回答させて貰えれば、
むしろ、そうやって距離を縮める事に対する結果を、
好意がないのなら、僕は望んでいないはずだよ。」


「いいや、君は、試すだろうよ。
相手がどう反応するかを試したくて。

拒絶されても、されなくてもいい、
ただ、反応をみたくて、君は詰めるはずさその距離を。」


「或いは、そうかもしれない。」


「君は、人の気持ちがどこで、どんな風に反応するのかを知りたいだけなんだよね。

人という生き物が、どんなものか知りたいだけなんだろ?


言い換えるさ、
君は人に期待しているんだよ、

自分の中にある人間像、
それから導かれる、人としての反応を君は予想して、

それが裏切られる事をずっと祈っていたんだよね。」


「…。」


「そして期せずして、君は知ったわけだ、
その無慈悲な試験を、”逆説的に”君は自分に試した事になる。」


「そうだね。

僕は小夜との間にある、人一人分の空間を、
僕の意識から締め出していた。

そこに選択肢が存在する事すら、意識しないようにしていた。」


「君は、喪ったものを、
いつか取り返す日がくるのかね?」


「さあ、それは解らないな。」


こうして僕は、
屋上にいく回数が半分になった。

その時間、僕は彼女がつくる野菜料理を食べる回数に宛てた。


鴉の助言を活かす方向ではなく、
まったく逆に、僕は進む事になる。

あの日、坂で小夜を見かけて初めて、
あの子との距離を詰めたいと願った。

でも、僕は、
さらに言い訳をさせてもらえれば、
きっと誰かを好きになったことがなかったんだと思う。

だから、本当に好意を抱いた相手に、どう距離を詰めればいいか、
全く解らなかった。
好奇心だけしかないような相手としか、関係を作らなかった僕は、

人との関係に、全く重きを置いていない僕は、

どこへ行って何を話せばいいのか、
もう何も解らなくなっていた。

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