僕はビールが嫌いだった。


学生の頃、トイレと席を往復しながら飲んだ、

あの臭いが堪らなく嫌いだった。



ビールを飲んだ後のキスに、


ビールの臭いがするからイヤと、顔を背けた僕。


だから、場末でアルコールを飲むのが嫌いだった。

あの臭いを思い出すのが嫌いだった。


僕の嫌いな自分を思い出すのが、嫌いだった。




2年前だったかな。


普段は会えない僕とキミが、

電話もできないキミと僕が、


チャットを覚えて、

夜な夜な密やかな文字のやり取りを始めたのは。



2人では、夜出歩けない僕らが、


Hydelightの発言: 2:12:36

 ねえ、じゃあ今から二人で乾杯しようか?


xxxxxxxxの発言: 2:12:58

 え?チャットしながら?



Hydelightの発言: 2:13:10

 そう、電波で乾杯、でも一緒に飲もうよ、

 モニターのそっちとこっちで。



冷蔵庫にあったのはビールだけ。


だから、仕方無しに押し上げたプルトップから、

いつもの嫌な臭いが登ったとき、


ほんの少しだけ後悔した。



でも、

二人同時に書き込んだ、


かんぱーい!


という文字から、


多分僕の中の記憶は、

学生時代から今に塗り代わった。




そうして、僕は廻りの友人を暫く驚かす事になる。



夏のbarにふらりと入り、ビールを煽る僕をみて、


どうしたの?と聞かれることもしばしば。



大人になったんです。


なんて、答えながら、理由は全然違ってた。


この苦さが口に広がるたびに、

キミの顔が目に浮かぶ。


離れたところにいる君を思い出す。




夏になると思い出す、

二人でした乾杯を。


秋になると思い出す、

初めてキミが僕の部屋に来たあの日のことを。


冬になると思い出す、

キミの肌だけが世界に明かりをともす、あの夜の事を。



そして、季節は春になるわけ、

キミがいない季節が、また始まる。