親愛なる織音へ
此れを書くまでに、何度紙を無駄にしたろう、
そんな出だしで書いたら、少しは真剣味が増すかな?
もう君は気づいてるんだと想う。
俺はもう君に逢わない事を決めた。
もし、君と逢うのがもっと早かったら、
或いは出逢わなかったら、
そんなことは考えもしない。
俺は今だからこそ、織音の魂に触れる人間になれた。
今より早ければ、俺は君のもつ輝きに気がつかなかった。
今より遅ければ、きっと地球そのものが無いよな。
最後のあの日。
織音との間に、子供が欲しいと願ってしまった。
そこで初めて、俺は、俺自身がどんな人間か気がついてしまった。
子供の頃、友人を亡くした時、
医者になりたいと想った。
それが、俺の生きる道なんだと想った。
でも、世界が終わるにつれて、
自分が一番深いところで、何を求め、何を考えてるのかが判った。
織音という触媒を得て、
俺は最後の最後に自分を取り戻せた。
だから、これは遺言だ、
織音の中に精を放って、
俺は死んだ、それが欺瞞に彩られていたとしても、
俺はあの瞬間に全て満足した。
一方的な答えを君に押し付けてしまう事を、
許してくれとは言わない。
もうすぐ、最後の患者が俺の手を離れる、
そうしたら、医者を辞めるつもりだ。
俺は、手首を切った理沙の側で、
舞と一緒に、この世の終わりを迎える。
なにやら気恥ずかしいが、
一番大事なものは、織音の側に置いてきた、
だから、残りの時間は陰なく笑える気がする。
もう俺には、心も命もないのだから。
過去の俺が間違いだったとは想わない。
でも、既に命を別けてしまった責任だけは、
果たさなくてはいけないと想った。
それをせずに、野放図に生きていく自分になってしまったら、
君を好きでいる自分に対する裏切りだという気がするから。
金でもない、社会的な地位でも、仕事の満足感でもない、
俺は君と居たいと願った。
出逢った時から、
何処へも行けないことの決まっていた関係だったのかもしれない。
それでも、俺は君に謝らない。
ありがとう織音、
君に逢えたことで、俺は生きることができた、そして死ぬ事ができた。
人を愛するという事を、今こそ身近に感じることができる。
ありがとう織音。
君に逢えてよかった。