最終か~い。
ああ、楽しかった不倫生活も今回で終わりなのね…。
やーなんか、織人女性陣に非難轟々ですねー。
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織人の出勤のご様子 からの続き
多分世界は騒がしかったんだと想う。
あと数日で終わる世界を前に、
ヒトはより自分らしい自分になったみたいだ。
暴力的な人間は暴力的になったし、
快楽を求める人間は、素直にそれにしたがった。
夢を見る人間は、夢見る世界に旅立ったし、
多分、私みたいに行くところもない人間も、それなりの数いたんだと想う。
結局ヒトは、最後の日を前に、
自分と、人間全部と向き合う事になったわけだ。
1週間前に、実家に顔を出しに行った。
流石に母親は、私の母親だった。
どっしりと、地に足をつけて、
「少し痩せたんじゃないの?ちゃんと食べなきゃ駄目よ。」
このヒトは、最後の日まで変わらないのかな、私と同じように。
そして、私の知らないところで、亡くなった父を想い、
独り泣いたりするんだろうか。
「かあさん、ごめんね、幸せになれなかったわ、私。
でも、後悔はなにもない、生きててよかったなって想う。
産んでくれてありがとうね。」
母は、少しだけ目を閉じていた。
やはり、このヒトも私の知らないところで色んなものを抱えているのだろうなと想った。
一緒に居ようと言わない、母と私の間に、
他の誰にもない絆を、確かに感じる事ができた。
そういえば、2日前篠崎が尋ねてきた。
「最後は織音さんと一緒に居たいです!」
織音さんと来たか。
なんかその一言に、一気に年を取った気になったけど、
急に真顔になった篠崎が、
「織音さんを抱きに来ました!」
だって、私思わず吹き出してしまったの。
馬鹿にしたんじゃないわよ?
ただ、素直な子だなって、世界が続けば面白い子になるのかもなって。
でも、ごめんね篠崎、
今この下腹部に残る、少しだけけだるい感じがね、
なんとなく、もうどんな形でも他の男とのセックスはしてはいけない気にさせるの。
「馬鹿だね、世の中はタイミングがあるのよ。」
そういいつつ、篠崎の目に、押し倒そうかな!
なんて色が浮かぶのを、おかしそうに見てる私は、やはりひどい女かもしれないな、
なんて想っていたけど、
がっくりと肩を落して、ため息を吐くコイツをみてたら、少しだけかわいいと感じた。
「ねえ、篠崎。
あなたに、私の心はあげられないけどね、
でも、この世界で最後に会った人間として、私が塵になる瞬間、ちゃんと君を思いだすね。」
なんともいえない複雑な顔をしてる篠崎は、
「先輩、この後どうするんですか?
誰か会いたいヒトとか、行きたい場所ってないんですか?」
篠崎の横っ面を引っぱたきたくなる衝動を抑えつつ、
心の中で、居るに決まってるじゃないの!と100回くらい叫んだ。
「私は、独りで逝くよ。
たった一つのものを抱えてね。
あ、ラストチャンス!もし私が抱えていくものが判ったら、篠崎のお願いを一つ聞いてあげる。」
我ながら残酷な仕返しだ。
篠原に判るはずがない、もしコイツがそれを判るくらいなら、
織人ではなく、コイツに惚れていたんだと想う。
「お、お父さんの写真ですか?」
何を頬を上気させてんだか。
「残念!」
篠原、会いに来てくれてありがとう。
嘘をついても、もう何もいいことの無い世界で、
君が、私に最後に想いを伝えてくれた事、きっと忘れない。
あなたが、私に残った最後の寂しさを持って行ってくれた。
翌未明には、小惑星が地球に衝突するという日の深夜に、
実家の側にある、小高い丘の上に独りで登った。
繁華街なんかでは、爆弾が破裂したり、ガスが撒かれたり、
色々街の風景も変わったみたいだけど、
都心から離れたこの町は、私が子供の頃からあまり変わらない。
此処からは、織人のいる病院も見える。
母がいる実家も見える。
なんとも狭い私の世界の全てが、この丘からは見渡せた。
ジーンズを通してさえ、存在を主張する芝生の感触と戯れていたら、
獣みたいな目をした男が此方を見ていた。
のっそりと歩み寄ってくるので、
「最後だからさ、静かに死なせてよ。」
そう微笑んだら、男は静かに去って行った。
不思議なもんだね。
世界中が素直だなって想う。
ヒトは優しくなんかない、残酷でもない。
ただ生きてるんだなって。
社会だ、良識だ、嫌われたくないだ、サビシイだ、
そんなものが全部無くなった日に、小惑星は点として現れた。
多分世界中の目が、多分その半分のうちの殆どが、その1点を見上げてるのかな?
ゆっくりと大きくなるのかと想った点は、
想像よりもずっと早く大きくなっていった。
テレビもラジオも電話も無い世界で、
人々がどんな想いを描いているんだろう。
物理的なつながりがない今こそ、他人の気持ちを知ろうとするなんて、
なんとも皮肉な話しだ。
空に広がる不気味なシミみたいな、小惑星のすぐ横に、
何時もと変わらぬ満月が浮かんでいるのに、気がついたのは、
随分後の話し。
織人とのことを、最初に出会ってから、今日に至るまでを丁寧に思い出し、
なんだ、結構忘れてる事だらけだな、なんて考えて後、
世界の終わりまでの時間を、どう過ごすかななんて考えていたとき。
広がりつつある小惑星の影と、満月の光が僅かに重なった。
え?とそれを疑問に想う前に、
人間の歴史が始まって2度目の出会いが産まれていたようだ。
もう衝突が確実だとされていた、小惑星の軌道は、
月のそれと交差したのだ。
私は、自分が過去に言った言葉を想い出す。
-もしかしたら、小惑星が、
月に衝突したら、どんな音が響くのか想像した-
-私は、その音を聴いたら欲情するかもしれない-
視線の遥か彼方で、音もなく、
そう音もなく衝突は成された。
そうして、私は聴く事になる、聴こえないはずの音を。
世界の誰も聞いた事のない、星と星が織る音を聴いていた。
それは、私の中にへばりついていた、たくさんのものを洗い流して、
いずこかへと消えていった。
取り残された私は、ぽっかりとした自分の身体の中で、
微かに響くを音に気がつく。
そして、私は濡れていた。
誰も居ない丘の上で、独り静かに、
その音は私を、濡らした。
そんな私の上で、月からは、冗談みたいな数の流星が、
可笑しそうに放物線を描いていた。
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おっしまい