さて、はて、
なんか、また包丁でしたね、包丁。
俺らのリレーには必須アイテムなんでしょうかね。
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その日、織人から電話があった。
妻が、自傷事件を起こしたと。
ずるい女だなと想った。
私を家に招きいれるだけの、根性がある女が、
なんの考えもなく、自傷をするなんて、考えられなかった。
だから、織人がしばらく会わないと言った時は、
そうくるだろうなあという想いが半分。
自分が好きになった男が、ありきたりの答えを出したことに対する、
失望が半分。
多分失望のほうが、少し大きかったかもしれない。
そうね、月面に置いた、指抜きの重さくらい。
職がない私は、こうして空き時間の利用価値を喪った。
そして、私は、なんとなく想っていた。
失望のほうが大きかったのなら、
多分織人は遠からず、私に逢いに来るだろうと。
私は、織人が完璧な人間だから、魂を惹かれた訳ではない。
この終わる世界の中で、
理想に恋するほど、私はロマンチストでもなければ、繊細でもない。
織人がもつ、上流階級の匂いの中に、
幼い繊細さと、どこか無垢な魂に惹かれたのだ。
完璧な存在に恋するのは10代だけでいい。
私はそんな隙間に落ちたのだ。
這い上がれないほどに。
付け加えるなら、彼はセックスがとても上手だった。
セックスが上手だということは、経験と想像力が等しくあるということだ。
それは、稀有な資質。
だから、今日のこの事態は、
意外ではなかった。
翌日、落胆する代わりに、
私は、土と轆轤(ロクロ)を買ってきた。
部屋を綺麗に片付け、その床の半分くらいにビニールシートを敷いて、
土をこねて見た。
空気をたくさん含ませるようにと、菊練りという方法が書いてあったけど、
どうやったら土に空気が入るのかなんて、もちろん判るわけがなかったけど、
その日一日土をこねていた。
明日は間違いなく筋肉痛だなと想いながら。
織人を忘れたいからじゃない。
織人を想いながら、ずっと土をこねた。
爪の間には、土が入り込んだし、
汗をぬぐうために、貌には泥がこびり付いた。
そして、私は疲れ果てて、土を抱きながら眠りへ誘われることになる。
鼻腔には、子供の頃嗅いだ懐かしい匂いが残る。
それは、開演前の映画館にぽつりと置かれた、
ポップコーンのカップみたいだった。