なんか思わず、『珈琲』シリーズを、『想いが消える朝』でマージマージ。


ちょっと本気だした。暇だから。


-------------------------------------------------


織人が初めて、私の部屋に来たことを思い出す。


「うん、フローリングの茶色が濃いのがいいね。」


女の部屋に来て、一声目がそれなんだ?


「椅子はね、ないの私一人だから。

好きなところに座ってくれる?掃除は、まあ、してある。」


語尾は少し口の中でもごもごっとなった。

だって、貴方が私の部屋にくるなんて、考えてなかったもの。


間接照明しかない部屋。

暖色の照明と、寒色の照明を、気分で使い分ける。


どちらかの明かりに照らされながら、

私は、壁一面窓のこの部屋で、

白い壁に背を預け、いつも独りで月と対話していた。


暗い女よね。



壁際の大きなクッションを、自分好みの位置に調整して、

織人も白い壁に背を預けていた。


丁度私がするのと、全く同じように。

私と違うのは、その指先、

時には、内臓をかき回すその指を私は一番最初に好きになった。

その手は、魔法使いの手だなと想う。


なんてことはないクッションが、貴方の手の中では、

とても風情のある、どこかの王城にでも据え付けられたクッションにさえ見える。

貴方が、私の肌に触れるとき、

今まで感じた事のない、快楽が私の背筋を貫く。

その後で、文字どおり貴方に貫かれるとき、

私は天国ってあるかもしれないって思える。



ワンルームのこの部屋の一番好きなところは、

何をしてもすぐ空気が一色になること。


悲しい気持ちで珈琲を入れれば、

部屋は、寒色の照明の中で、

哀しく浮かび上がる。


お風呂上りにリラックスすれば、

お気に入りのバスキューブの匂いで、部屋は充満する。


難しくないのがいい、

哀しみは、哀しみへ、

喜びは、喜びへ。



いつもより、

蒸らしに時間を掛けて珈琲を作る。

珈琲の半分は薫りでできているなあと思いながら。


今日は一色の部屋に、貴方が居る。

ほんの少し、貴方が、織人が、空気に混じる。


2色になった部屋は無条件に、私を幸せにしてくれる。

でも、幸せが何かは、判らない。


だって、食べた事ないもの。



カップを両手に持って、織人のところへ行く。


「あっつくて火傷しそうなんだけど、

織人?珈琲を受け取ってくれる?

それとも、私にキスしてくれる?」


何も言わずに、織人は私に接吻した。

触れた唇が、微笑んでいた事が判る。


「でも、珈琲を飲むならカップの下に受け皿が欲しい。」


「あ、できれば白いのがいい。」


目の端に入った、私の下着をソーサーにしようかと想ったけれど、

流石に毒気がありすぎたので止めた。


カップの湯煙の中に映りこんだ月は、

なんだか、タクラマカン砂漠の上に浮かんだ蜃気楼みたいだった。


蜃気楼を見ながら、私は考える。


貴方と逢うまでが楽しいのかしら?

貴方と逢ってからが楽しいのかしら?

それとも、独りで部屋にいるのが素敵なのかしら?


でも一つだけ間違いないのは、

もう暫くして、それが4分後なのか、12時間後なのかは判らないけど、

部屋を後にする、貴方の背中をみて、私はきっと思う。


「天国なんて、あるのかな。」


きっと、そう想う。