ほっしゅほっしゅ、

本日2本目~。


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お昼に書いたの の続き



目を覚ましたときには、泣いていた。


涙を吸った枕が冷たいのは、事実。


こうやって最後の一年に、知らなくてもいい知識ばかり増えていく。



目覚めたのが朝だったら、まだマシだったのだけれど、

カーテンの隙間は、暗闇に染まっていた。


織人からメールも電話もなくなって随分経つ。


一度途切れた連絡は、もう永遠に来ないんじゃないだろうかって、

そんな不安に後ろ髪を引っ張られちゃうくらい、今私は弱ってるらしい。



簡単な事だ、

風邪をひいてるから。


人生があと200と数十日で終わるとするなら、

私は、自分の好きな男と、何回逢えるんだろうか、何回抱き合えるんだろうか、

そんなつまらない考えに囚われているから。


あの女に会わずにいられたら、

もう少し、マシだったのかな。


人間って面白い。

想像する対象ができてしまえば、栓を抜いた浴槽みたいに、

妄想が渦を作り出していく。水面が波立っていく。


もう若くはない織人の性器を巡って、

ハタ取りゲームでもしてる気になってくる。


いっそ開催してくれないかしら。

一度でいいから、あの女の腹でも、顔でもいいから、蹴るなり、殴るなりしてやりたい。


別に悪いのは、あの女ではなく、

私と織人なのかもしれないけど。


でも、少なくとも、あの女が完璧で、いや、最低限をこなしていたのなら、

あの日、織人はラウンジで酔っ払ってる私に、声を掛けなかったはずだ。



馬鹿馬鹿しい…。

もしや、たらなんて語りだすなら、さっさと織人と別れるべきだ。

私は段々、自分の嫌いな自分になり出している。


織人は、私にイメージを持っている。

だから、こんな私の部分を見せたのなら、きっと興ざめして、

家族に戻るのだろうと、想っている自分がいる。


でも、心のどこかで、

「馬鹿だな、織音、独りでずっと抱えてたの?」

って、頭を撫ぜてくれる織人を望んでいる気がする。



右にも左にも行けない、迷路の中で、

独りしか世界に存在しないかもしれない恐怖に捕まっていたら、

携帯が鳴った。


「先輩、会社辞めちゃったんですか?!」


篠崎だった、

会社で私の後輩だった子。


「やめちゃったのよ。」


いつもくるくると大きな目で、目に見えない何かと話してるような子。

仕事はあんまりできなかったけど、何故か憎めないキャラ。


「ええー、僕先輩にまだ色々教わりたかったのになあ…。」


これから終わり行く世界に、何を望んでいるのだろうこの子は。


「先輩そうだ、今度飯でもいきませんか?

美味しい店あるんですよ。話したいこともあるし。」


「ふぅん、自信あるんだ?不味かったら、電話登録削除してあげるからね。」


「はは、酷いなあ先輩はほんと。

でもなんで会社辞めちゃったんですか?」


「あと、1年しか続かない世界で、なんでストレスを溜めて、日々生きてい…。」


違和感を感じた。

何故私は、辞めたのか。


衝動的に、動いたはずだった。

風邪の勢いだった。

もう、終わる世界で、これ以上あくせく働いて何になるのか。


「先輩!?え?泣いてるんですか?!どうした…」

携帯の通話終了ボタンを押す。


私は泣いていた。

今度は現実の中で。


なんて私は単純なんだろう。


残り少ない人生の中で、

朝一番に、織人が私の部屋に来たことが嬉しかったのだ。


そして、同じ事がまた起こるかもしれない。


その時に、会社に出かけていたくなかった。


私は、この部屋で織人を待つ事を、無意識に望んだのだ。



馬鹿な私。


どうせなら、気づかないでいればよかったのに。



何時もと同じように、白い壁に背を預け、


織人にメールを送った。



-織人に逢いたい、今、逢いたい-


そんな短い、

でも私にとっては、心をそのまま、切り取って貼り付けたような、

血が出るような文面。




世界が私でできていたのなら、

その携帯の振動は、世界を揺らしたはずのメール。


でも、その振動は、

眠る織人の脇にある、サイドボードの上で鳴った。


そして、その部屋でその振動を聞いたのは、

織人ではなく、織人の妻なのだった。



世界は、その時、1度だけ気温を下げた。