まだ、木々の枝が尖っていく様を見て、
その切っ先に寒さが伴わない、そんな秋だか冬だか判らない季節。
部屋から見上げた月は、
煙るわけでもなく、ただ空に溶け出していた。
流行歌にあるように、見上げた月はいつも一つ、
そんな歌がじんと胸に染み込むようになったのは、
つい最近のこと。
成長の遅い僕は、今頃になって流行歌が判る様になった。
何もないはずの夜に、溶けかけた月を見ながら、
自分の心にできている空白の輪郭をなぞってみる。
多分若いころに同じことをすれば、触れた自分の指に傷ができるはずだった。
何時だって、君が居なくなった空白の存在感に負けて、
無くした君の大切さより、
自分の中の空洞にただ、涙が零れたのかもしれない。
でも、年月は僕をソフィスティケートしてくれた。
幼いころのように、感情を一括で償却できなくなった代わりに。
カードローンのように、ふとした瞬間に、
君が日常を横切っていく。
痛いわけでもない、哀しいわけでもない。
ただ、それは分割されたもう君が居ないという現実を受け入れる儀式。
何ヶ月だか、何年だか、きっと長い年月の果てに、
きっと自分の空洞と、自然に付き合える日が来るのだと予想できる。
だから、今晩の僕は、
流すはずだった涙の分だけ、アルコールを流し込んでおこうと思う。
あの日、分岐してしまった、ありえたはずの僕と語りながら。
月下で、独り。
グラスの中で、冷たくなる氷の響きは、どこか優しさを含んでいるなと、
そうおもえるわけで。