両親に連れられて、遠くの場所へ海水浴に連れられて行ったのは、

僕が小学生の頃だったと想う。


別に近場でも良かった海水浴。

今にして想えば、人ごみの嫌いな父の願望が入っていたのかもしれない。


聞いたことも無いような地名を言われたけども、

子供の僕がそんなことを覚えているわけもなく、

ただ、遠い旅路に、早くこの身を水に埋めたい願望と戦うだけだった。


それでも、ひなびた宿はこざっぱりとしていたし、

目の前に広がる人気のない、岩場と砂浜が同時に存在する海は、

それまでの僕の想像を、簡単に裏切るほどに美しかったと言える。


でも、一度海に入ってしまえば、

そんなことはどうでもいいこと。


その頃の僕は、小学生の感性しか持っていなかったし、

なによりも、水の中で重力から解放されるあの感覚以上に楽しいことなんてなかったのだから。



そうして、気がつかないうちに時計の針だけが、孤独に歩みを進める中、

楽しさの残したものといえば、着実に僕の肌に降り注いだ陽の光の残滓だった。


冷却剤を塗ってくれた母の手から、やさしさよりも、面倒くささが伝わってきたことを覚えてる。


こんなになるまで遊ぶものじゃないわよと。


父の、この世の終わりとも思えるような大鼾が、眠りを妨げたのか。

肌のひりつきが、現実に引き止めたのか。


その日僕は眠れなかった。

普段であれば、絶対にしないことだけれど、その日の僕は、

少しだけ開けられた窓から聴こえてくるさざなみの音に導かれて、


目の前に広がる海を見ることになる。



身体を断続的に襲うひりひりとした感覚と、

寄せては返す波の音、それが同調して徐々に身体の火照りも収まる頃に、


風の次第で耳に届くものに意識が向く。


それは途切れ途切れに、

緩急を持ちながら、笛の音のように聴こえてきた。



砂浜は、西のほうへ歩いていくと徐々に岩場になり、

聴こえてくる曲のようなものが、ヒトの声であるらしいと判った。


僕の身の丈ほどもある岩の向こうから、

女性の悲鳴に似た声が、響いてることが理解できたとき。

僕の歩みは、駆け足に変わっていた。


だから、その岩の向こうにある砂でできた窪地に、

一人の女性が横たわっているのを見つけたとき、

安堵感なのか、違和感なのか、それとも驚きだったのか、

色々な感情が僕の中に生まれることになる。


でも、その女性は、真っ白い打ち掛けをはだけて、

豊かな着物より、尚白い双丘を、夜風に晒していた。


なめらかな腹部が、惜しげもなくその柔らかさを誇示していた。


まるで、波濤こそが、その身体を舐めあげるように、

一つ波の音が響くたび、その女性は身をくねらせ、

砂地に幾何学模様を、足の指で書き続けている。


波の強弱に合わせて、

自らの乳房を千切れんばかりに、

或いは幼子をあやす様に優しく揉みしだいていた。


陰部に当てられた長い指先は、白蛇のようにくねり、


まるで、その窪地にはその女性が独りしか居ないのに、

2匹の白蛇が、自由を奪われた女性に挑みかかっているかのような印象を僕に与えた。

噛み痕の代わりに、その爪で赤い線を残しながら。


女性は、海と妖かしに、その身を犯されているようだった。


でも、女性の喉から発せられるのは、恐怖の声ではない。


波濤と嬌声が、僕の脳髄に”きり”の様にねじ込まれていった。

その合奏は、どこか現実味がなかったのを覚えている。


僕が初めて見る、母親以外の裸婦。


それなのに、女性の身体に徐々に浮かび上がってくる、珠の汗や、

起立している乳首の質感。

月の光に照らされた襞の重なり。

そんなものを見たこともないのに、何故か細部だけは現実的だった。


それは、僕の経験ではなく、本能が識っていたのかもしれない。


白蛇の鎌首がぬるりと女陰に滑り込む、

砂地に残る模様がより一層深みを増し、響く声の高さが上がる。

会陰部からの滴りは、砂地を濃く染め上げ、

白い肌には斑の様に砂を纏い出した。


額から流れた汗が、胸の谷間を滑り落ち、

股間の繁りにまで到達しようとする瞬間、

僕の喉がごくりと鳴った。


喉がひりつくほどの渇きを感じた。


薄明かりの中で、乳房に浮かぶ血管の蒼さと赤に、

かつてない衝動が僕の下腹に集まるのが判かる。

最後の高まりの瞬間、嬌声は僕の目の前からではなく、

後ろから聴こえた。


一際大きな嬌声は、更に大きな波の音にかき消されていた。


弓なりになった、その身体が最後の模様を砂地に抉る。


驚き振り返った僕が、再び窪地に目をやった時に、

女性は此方を見ていた。

口元に柔らかく笑みを浮かべながら、

全身には疲労がべっとり纏わりついているようで、身動きする気配すらないのに、


今この瞬間、女性こそが白蛇となって僕を射竦めていた。



前に進むも引くもできずに、僕は波の音だけを聴いていた。


明くる朝、何故に僕が布団に包まって寝ていたのかは、

その理由を僕は知らない。


ただ、全身を苛んでいた、日焼けの痕だけが、

綺麗さっぱりとなくなっていた。


そして、その全ての熱を合わせたよりも尚、下腹部に熱が宿っていたことを覚えている。


耳の奥で、波濤と嬌声の輪唱だけが残っていた。


僕があの歌の続きを聴く事になるのは、

もっとずっと後の話しだった。




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↑しかし…Hydeエロはセンスねえな、ほんとに…