リレー小説 『アメゾラ』 第10話 Side:H-4
電話が鳴ったのは、日付が変わる瞬間だった。
きっと、その時刻には意味があったのだろうけど、
僕はその意味を知るには大分時間が掛かったよね。
「もしもし、私ミキです。今日引っ越し終わったよ。
それでね、記事で予告した通り、来週の日曜日に引っ越しパーティーやるんだけど、
ヒデキさんもいかがですか?もちろん、セイさんとクロスさんも一緒よ !」
接続詞が気になると言っていた君から、
ヒデキさん”も”と誘われた電話。
普段は軽いノリの僕が、軽く6秒は沈黙した。
つまり、僕が最後の招待なの?
なんてくだらない男なんだろうね、自分は。
そんな事を考えながら、僕はこの瞬間から、また仮面をかぶる自分を意識することになる。
「あら、お誘いありがとうね、もちろん行かせて貰うよ。
セイさん、もクロスもくるんでしょ、楽しみだね。」
この時に初めて、理解した。
ネットの中の君に、ミキに、本当に恋していた自分を。
電話を切った後、煙草に火をつけてじっと燃える様を見ていた。
そこから数日は、点けた煙草の火が、じりじりと燃えるように過ぎていった。
結局のところ、息を吸い込もうが、そのまま置いておこうが、
煙草も、日付も、勝手に進む。
世が明け、朝になる。それだけのこと。
日曜は曇り空だった。
何本かの缶ビールと、僕のお気に入りのムルソーを1本を土産にインターホンを押した。
事前にね、ミキの顔は知っていたよ。
だから、出迎えに出てくれたキミの顔も、声も知ってるつもりだったけど。
やっぱり、胸が疼いたね。
だって、現実のほうが素敵だったから。
手を伸ばす距離に君が居る。触れようとする前に、ミキが言った。
「やっと会えたね。」
うん、写真よりもそのくるくるした髪は柔らかそうだね。
でも、僕は今日が最初で在って欲しくなかった。
「やっと会えたね。」
多分、上手く笑えていたと想う。
「遅いよHyde!」
「はじめまして…だよね?」
にこやかな声。クロスとセイさん。
ネットの中の人と上手く現実で付き合うにはコツがいる。
はじめから余りイメージを膨らませないこと。
まあ、恋愛感情さえ絡まないなら、それはあんまり難しくないけどね。
だから、クロスとセイさんは、すんなりと現実の知り合いになれた気がする。
僕以外の3人は顔見知りだった。
そして、多分クロスとは以前に出会ってたことを、会話の中で察する。
そうか、あの不動産屋で、楽しそうにしてた係りの人がクロスだったのか。
その相手がミキだったのか。
幸いにして、人と話すのが苦手ではなかったから。
そのオフ会のような、引越しパーティはとても楽しいといって差し支えない内容だったと想う。
以前クロスの記事に上がっていた、焼きうどんを彼が振舞うのが、
今日のメインらしい。
あの日、僕が一つの恋を終わらせた日に、クロスが嬉しそうだった理由が、
今目の前で繰り広げられている。
「ハンドルと実名同じなんだ?勇気あるね。」
そういって、自慢の料理をミキに取り分けるクロス。
25歳だという若さと、素直さは正直羨ましい。
時折ミキがこちらに視線を投げてくるけど、僕はその全てをにこやかに、受け流した。
そして、セイさんも時折楽しそうにしてるクロスとミキをちらりと見ていた。
その意味が知りたくなったのかな、僕は。
クロスお手製の料理はとても美味しかった。
男らしい料理といえるのかな。独特の調理法、確かに記事の通り、美味しかった。
美味しかったけど、少しだけ敵意を感じて、食べてはいけない気にもなった。
「クロスすごいね、これでいつでもお嫁にいけるじゃない。」
と、僕。
「あら、ありがとうHyde、なら貰ってくれるのかい?」
「嫁さんのが給料高いのか!?なら、僕が料理しましょうか?」
「それじゃ意味無いじゃん。」
笑いあう4人。
そんなやり取りの中で、セイさんの皿があんまり減ってないことに気がついた。
だから皿の横にあったグラスを持ってセイさんに手渡す。
「良かったら飲みませんか?値段の割りに美味しいんですよ?」
一瞬だけ、僕をじっと見つめて、
「セイ…、いや、葉月でいいのよ。もうネットの知り合いじゃないもんね。」
「そうですね、なら俺もヒデキで。」
セイから葉月になった女性は、とても綺麗に喉を動かしてワインに口をつけた。
或いは、ミキがこの場にいなければ、恋が始まってもおかしくないくらいに。
そうやって、4人で、ネットの出逢いからのいきさつを話し終えた後、
次第に場は2組に分かれていく。
時折交わされる無言の視線が、何処と何所を結び付けていたのか。
共通のブログ仲間が、ロフトの上から見ていたらとても楽しかったろうね。
できれば、僕もそっち側に廻りたかった。
そして、一番最初に緊張の糸が切れたのは、やはり僕だった。
「楽しんでるところごめんね。今日はこの後用事があるから、少し早いけど辞退するね。」
時刻は20時34分。もちろんこの後の予定なんてない。
「まだ、いいじゃない?ダメなの?」
そういう意味からすれば、ミキは終始素直だったのかもしれない。
いつだって、自分の思いを口にしていたのかもしれない。
「ごめんね、ダメなんだ、トイレだけ借りておいとまします。」
にっこりと返す僕。
トイレを借りる振りをしながら、ダイニングにプレゼントをそっと残す。
ティーセットを一式。カップは2つ。
メッセージを添えて。
-きっと、これを残せたのなら、今日の僕は楽しかったんだろうね。
今度は、僕の部屋で会えるといいな-
住所を書き残しておく。
我ながらマナー違反だよなと想いつつ、そういえばそんなブログネタあったね。
折角盛り上がってるところに、ごめんなさい。
「それじゃ、皆は楽しんでね。」
残念そうなミキ、ちょっとだけ嬉しそうなクロス(少しは隠せよな)。
「なら、飲み物が足りないから私書いたしに行くわ。」
葉月が立ち上がる。
「また会おうぜ?みんな結構家近いみたいだし。」
「うん、また会おうね!絶対ね。」
今日は振り返らないでおこう。
多分、俺の負けだから。
立ち上がる僕、買出しに出る葉月。
クロスが送っていくといわなければ、当然ミキは席を立てない。
自分が望んだ構図。
もし次があるのなら、この日一番狡猾だったのか、是非語ってみたいところ。
「帰っちゃっていいの?」
玄関に着くまでに、葉月が聞いてくる。
「ええ、いいんですよ。」
再び微笑む僕。
エレベータに二人で乗り込み、暫くの沈黙を共有する。
ドアが開き、降りる瞬間に、葉月はヒールを溝に引っ掛けてしまう。
あわてて、葉月の腰を掴む僕。
そこは丁度ウォンが、葉月の腰を引いた場所。
同じところ。
今は僕が、意志の力を込めて引き寄せた。
「今度は僕と食事にいきませんか?」
「あら、私でいいの?誰かの代わりは嫌よ?」
悪戯っぽく笑う葉月
引き寄せた葉月の身体は、目の前。
「誰かの代わりなんていませんよ、いつだってね。」
時刻は21時ちょっと前。
曇り空は、アメゾラに変わっていた。
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リレー小説 『アメゾラ』 第10話 Side:H-4 ここまで
俺んとこで長くとめちゃってごめんなさいねえ(汗
しかも、1000文字っていっといて、エライ長くしてごめんなさいねえ(汗
しかし、2桁までいきましたねえ~どうなるんですかねえ~
次は Another day,Another time の :☆彡(じゃじゃ馬)さん
へ
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