重ねて勧めてもシャイロックには慈悲の心を示すつもりがないと分かったポーシャは、アントニオーに「何か言うことはないか」と尋ねます。

 アントニオーは覚悟はできていると答え、バッサーニオに君のせいでこのようになったからといって嘆かないでほしいと頼みます。

 するとバッサーニオが言います。

 

第四幕第一場

Antonio, I am married to a wife

アントニオー、僕は結婚し妻がいる。

Which is as dear to me as life itself;

僕にとっては命そのものの愛しい存在だ。

But life itself, my wife, and all the world,

だけど命も妻も世界全ても

Are not with me esteem'd above thy life:

僕にとっては君の命程貴くはないんだ。

I would lose all, ay, sacrifice them all

僕は全てを失ってもいい、そうさ、全てを犠牲にして

Here to this devil, to deliver you.

ここでこの悪魔に捧げてもいい、君を救うためならば。

 

 それを聞いたポーシャが言います。

 

Your wife would give you little thanks for that,

貴方の奥さんはそんなこと感謝しないでしょうね、

If she were by, to hear you make the offer.

もしここにいて貴方がその申し出をするのを聞いたら。

 

  バッサーニオは新婚ほやほやなのに、アントニオーを救うためなら新妻を犠牲にすると言い出しました。落ち着いて考えればとんでもない発言ですね。

 「君を救うためならば、全てを犠牲にしてもいい」と妻に言うことが求められている風潮の中で。

 

 

  現在の日本では、「本当に飲食店が営業を自粛する必要があるのですか」とか、「飲食店でお酒を飲んだから感染が広がった根拠を示すデータ、つまりエビデンスがあるのですか」とか、「本当はマスクなんてウィルスの侵入を防ぐ効果がなくて、し続ける意味もないのでは」とか、「認知症の老人がトップに居座っていること自体が緊急事態なのではないですか」とか心の中で思っても、決して口に出してはいけない風潮があるような気がします。