World of Tanks -どうして開幕特攻をしてはいけないのか- | KMのゲームブログ

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今回は少し堅苦しいお話。15人VS15人(7人VS7人でも基本的には同じ)の戦闘において一人欠けることがどの程度戦術上の不利に当たるのかを「ランチェスター理論」を用いて述べていきます。


PS4版でもサービスが開始された「World of Tanks」ですが、味方への迷惑行為として忌み嫌われる行動の一つに「開幕特攻」というものがあります。
具体的には、戦闘開始直後から全力で走って(偵察をし)、鉢合わせた敵の集中砲火を浴びて爆散するという趣旨の行動を指しています。
基本的には足の速い軽戦車や中戦車の初心者に多い行動。
本人は敵の位置を暴いて仕事(偵察)をしたというつもりになっているかもしれませんが、これは大きな間違い。
余程見通しの良いマップでない限り、味方の重戦車や駆逐戦車は配置につく前段階で砲撃できませんし、自走砲でも照準を合わせる前に敵が見えなくなるので命中させるのは困難。
開始2~3分での爆散は、本当の意味でただの「無駄死に」に終わる可能性が高いです。

※敵を視界に捉えた状態でUターンし、颯爽と味方のいる安全圏まで戻ってくる偵察車両は優秀な「走り偵察」。
「初動で踏み越えてはいけない防衛ライン」の見極めができずにそのまま爆散する「開幕特攻」とは全くの別物です。



では、開幕直後の15対14という数の差は、残された味方にとって一体どのぐらいの不利になるのか。
これは「ランチェスターの第二法則」を用いて計算することができます。
ランチェスターの第二法則は「集中効果の法則」とも呼ばれ、
数が多い方は敵一人に対して集中的に攻撃を浴びせることができ、数が少ない方の攻撃は分散するという理屈。

「兵器の性能(質)は互角」と仮定した上でこの第二法則に従えば、

戦闘力の差、および生存数期待値は、
15×15×1-14×14×1=225-196=29
※兵数(量)を2乗した数字に兵器性能(質)を乗算すると「戦闘力」を算出でき、その差を比べて各軍の残存兵数を算出するという意味の計算式(公式とその解説はウィキペディアにも載っています)。
早く倒せばそれだけ被弾のリスクも減るわけで当然と言えば当然の話。
遮蔽物から顔を出した瞬間に履帯を切られ、自分が一発撃つ間に相手の十字砲火を浴びて何発も被弾したという経験は誰しもあると思います。
「量の2乗」という数値設定が本当に適切なのかはさておき、数字上でも物量の力を感じることができます。

√(29)=5.3851・・・
※戦闘力の差を√計算した数字が、戦闘終了時における多数側の生存数期待値です。

従ってA軍15人 対 B軍14人でどちらかが全滅するまで戦闘した場合、理論上A軍は5人ないし6人が残っていることになります。


では15対12ならどうなるでしょうか。
15×15×1-12×12×1=225-144=81
√(81)=9.0000

15対10の場合。
15×15×1-10×10×1=225-100=125
√(125)=11.1803・・・

15対8の場合。
15×15×1-8×8×1=225-64=161
√(161)=12.6885・・・

15対5の場合。
15×15×1-5×5×1=225-25=200
√(200)=14.1421・・・

兵器の質が同じ場合、兵数に差がつくほど多数側の被害が少なくなり、多くの兵が生存できることが読み取れます。
序盤にたった1台味方がいなくなるだけでチーム全体では約5台分のハンデを負うことになり、3台差が付いた時点で9台分ものハンデを背負ってしまうことになります。
要所を制圧されて自車両の視界外から一方的に狙撃されたり、回り込まれて装甲の薄い側面や背面を砲撃される危険が高まる点も見逃せません。
もちろん実際の各戦車には性能差がありますし、移動中で攻撃に参加できない戦車や別エリアにいる戦車、働きの弱い戦車(※)もいます。
※例としては、後方に引き籠る重戦車(芋重、芋HT)や偵察をしない軽戦車、射線の通らない場所から動かない駆逐戦車など、車両ごとに求められる本来の役割を果たさないものをいいます。
上記のような事情もあるため実際に理論値通りの結果になるわけではありませんが、序盤早々に2~3台の戦力差が付いただけでどれだけ厳しい戦いになるかというのは想像に難くないと思います。



似たような理由で、味方の「レミングス」という行為も忌避されている行動の一つです。
WoTにおける「レミングス」とは「リーダーの後ろを盲目的に追いかけるプレイヤーたち」を指します。「集団移動による自殺行為」といったニュアンスで使われます。
大勢の仲間に囲まれて安心、安全・・・と思ったら大間違い。

手薄になったエリアの味方は必然的に苦しい戦いを強いられて早晩全滅しますし(しかも敵の被害は少ない)、レミングス部隊も全員がいつも理論値通りの火力を発揮できるわけではありません。
狭い場所では味方が邪魔で砲撃できないことがありますし、味方が邪魔で遮蔽のあるところまで後退できないことも想定されます(いわゆるケツブロック)。
別の味方を狙った砲撃の流れ弾に当たるリスクも増えるため、早い話が居ない方がマシという状態です。

そして、戦車戦におけるレミングスの最大の問題は敵車両の側面を撃てないことにあります。
通常の戦車は正面装甲がもっとも厚くなっているので側面や背後を狙うのがWoTの鉄則ですが、味方が一箇所に固まるレミングスではそれが非常に困難です。
敵の正面装甲をぶち抜くことができる車両もある程度限られているので(トップティア戦車&最終砲まで開発済み&課金弾運用など)、砲数の多さをまったく活かせません。
逆に敵は労せずしてレミングス部隊の側面を狙撃できる位置に陣取ることができるため、低ティア戦車でも簡単に相手車両にダメージを与えることができます。
反撃しようにも砲塔旋回には時間がかかりますし、照準を絞るにも数秒必要です。
下手すれば見えない位置から一方的に撃たれる可能性もあるので、実際の砲数の2倍以上の戦力差があってもおかしくはありません。


※レミングス・・・元は「増えすぎたレミング(ネズミの一種)が種族を保存するために一斉に崖から飛び降りて集団自殺する」という迷信が語源のようです。
WoTでレミングスと言えば「集団移動(による自殺行為)」を意味しています。



突破に手間取った場合は別のエリアを進んできた敵から挟撃される形となりやすく、結果としてランチェスター理論の数値以上の大差で戦闘が終わる可能性すらあります。
10人なら10人分の火力が発揮される場所であれば集団移動をするのも悪くないのでしょうが、それだけの火力を活かせるマップはWoTではごく少数です。
また、見通しが良いということはそれだけ敵の砲撃に晒されるという意味でもあり、リスクとリターンが見合っているとは言い難いのが現実。

味方がレミングスをしている場合の自走砲は、最善の狙撃場所に長く留まることができませんし、もっと言えば大半の時間を砲撃ではなく敵から逃げるための移動に費やすことになります。
膠着した前線の状況を打破し得る自走砲が本来の役割を果たせない状態が長時間続くため、
レミングス行為=敗北と同義というのも決して言い過ぎではありません。

では、期せずして自分がレミングス側の部隊に入ってしまった場合はどうするべきでしょうか。
理想論であれば短期決戦一択。将棋の格言で言うと「両取り逃げるべからず」。
有効射程圏内に敵戦車が5台がいても一台の戦車が砲撃できるのは一度に一発というのが大原則。多少の犠牲は厭わず数の暴力で押し潰すのが正解。
速やかに敵の背後を取れれば、他のエリアで戦っている味方が助かるかもしれませんし、自陣防衛のために敵の戦力(注意)を分散させることもできます。
少数の敵に時間を稼がれるという展開だけは許してはなりません。相手が次の砲弾を装填する余裕ができてしまって数の有利が働きませんし、別エリアの敵に突破を許してしまうからです。
ただし、上記の「数で押し潰す」戦術というはあくまで理想論。
「前進」「散開しろ」「別エリアの援護に向かえ」の無線連絡もない現在のPS4版WoTでレミングス部隊が一丸となって突撃できる機会はそれほど多くありません。
「自分が突撃しても他の味方が続いてくれなかったら無駄死にに終わってしまう」→「自分だけ撃破されるのは嫌だから遮蔽に隠れていよう」という展開になりがち。
視界外に敵がどれだけ潜んでいるかも分からないため(単に移動が遅い駆逐戦車や重戦車が戦線に到着してないだけかもしれない)、上手く連携が取れるはずもありません。
つまり、自分がレミングス部隊になってしまったときに取れる行動は「速やかに別エリアに転進する(足が遅い戦車は除く)」「あくまでも速攻突破を目指す(失敗すると爆散)」「流れに身を任せて遮蔽越しに砲撃戦(要するに諦める)」のどれか。


まとめると、プレイヤー1人にかかっている責任は想像以上に大きく重たいので、他に14人の味方がいるからと言って安易に爆散するような行動は厳に慎むべしというお話でした。
途中復活のあるゲームなら開幕特攻も有効かもしれませんが、少なくとも現在のWoTで主流の戦術となることはありません。