みなさんは「化身」という言葉をご存じでしょう。
「知ってるよ」という方にその意味を尋ねるとすると、

多くは「恐ろしい姿で現われる化け物」と答えられるのではないでしょうか?

でも、それでは何となく当たっているようで、実は間違いなのです。

正解は「衆生済度のため神仏が形をかえて人間の姿としてこの世に現われること」。

(岩浪書店『広辞苑』第六版より:2008年)

実体は神仏で、仮の姿が人間という存在が、本来の「化身」です。

 

銀座六丁目にある画廊REIJINSHA GALLERYでは、

本日より「化身たち」と題した展覧会が開催されています。

柴原幸智菅野麻衣子という中堅画家による二人展です。

 

ふたりがイメージする化身は、「いきもの」だったり「女の子」だったり。

その表情や仕草、佇まいは画家の心象を代弁し、

見えない言葉を発しているような雰囲気を漂わせています。

 

1983年生まれの柴原は、油画、ペンによる細かな線画、写真、映像など
あらゆる表現方法を試みているアーティスト。

今展では、線画作品のみの出品になります。

重力を無視するかのように、ふわりと宙に浮かぶ「化身」は、
その大きな目で、私たちの心の奥底を見通しているかのようです。
しかし、その視線は決して冷たいものではなく、
我々に救いをもたらしてくれそうな、そんな安心感を与えてくれます。
 

 

 

彼が制作時に意識しているのは、作品の支持体である紙の上で起こる現象や
絵画の向こうの空間に広がる時間、響きといったもの。
天高くから人間世界を見下ろす神仏のような感じでしょうか?
そして苦しんでいる人間を見つけたら、救済のために下界に降りてくるのです。

 

一方、多くのグループ展やアートフェアに参画し、
現在人気上昇中の菅野が描く「化身」は、ちょっと生意気そうな女の子
画家自身が紡ぎ出す様々な物語からスピンアウトした彼女は、
神仏と言うよりも、善と悪とを併せ持つトリックスターのようです。
世界各地の神話で、文化創造と結びつけられる事ことが多いトリックスター
菅野の「化身」も、新たなアートという文化の創造者なのかもしれません。

 

 

 

彼女の作品の多くは、実体験から感じた素直な気持ちを題材にしたものだそうです。
「日記のような」ものという本人の言葉もあります。
描かれる女の子たちは、画家の人生の一部を代弁する役者のような存在。
そういう意味では神仏の「化身」などではなく、
菅野自身の「化身」だと言えるでしょう。

このふたりの作品を観た方が、どんな印象を持ち、どんな物語を想像するのか?
おそらく私の印象や、私の物語とは違ったものになるのでしょう。
アートは観る人の数だけ違った捉え方があると思いますが、
他の方がどんな風に思っているかを知りたいものです。

さて、開幕日である今日は、オープニングレセプションも行われました。
ふたりの出展作家と来廊者たちの間でどんな会話が繰り広げられたかにも
非常に興味があります。
 

化身たち■開催概要
会期:11月4日(金)−11月18日(金)
休日:日曜日・月曜日
時間:12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
会場:REIJINSHA GALLERY
住所:東京都中央区銀座6-7-2 みつわビルB1
交通:東京メトロ銀座駅B3 出口より徒歩1分
電話:03-6215-6022