以前このブログに書いたように、先週、舟越桂さんを取材してきました。


10月15日発売の雑誌「美術屋・百兵衛」の特集が岩手文化考ですから、
岩手県盛岡市生まれの舟越さんに登場してもらうことになったのです。

1980年代中頃から独特の人体彫刻で美術界の注目を集めた舟越さん。
一般にもその名(と作品)が知られるようになったのは、
1993年に発行された天童荒太のベストセラー小説「永遠の仔」の装丁に、
舟越作品が使われたからではないでしょうか。

昨年から今年にかけても「舟越桂 私の中のスフィンクス」展が兵庫県立美術館を皮切りに、
群馬県立館林美術館三重県立美術館新潟市美術館へと巡回しました。
そんな舟越さんのインタビュー記事は10月まで楽しみに待っていただくとして、
今日は、取材時に撮影した写真を中心に紹介します。

アトリエには過去の作品(楠による彫刻)やデッサン、道具類、資料などで溢れていました。
いかにも芸術家のアトリエといった雰囲気です。


舟越さんの代名詞である木彫の半身像としては最も古い作品「妻の肖像」(1979-80)
ずっと手元に置いてあるのは、やはり手放したくないからでしょうか?


「妻の肖像」から10年近く後に作られた「冬の本」(1988)
舟越作品のもう一つの特徴である、彩色した大理石の目がはっきりと分かります。
こうして見ると、舟越さんが好きなエジプト彫刻を思わせるアイラインですね。

道具も大事に使っておられる印象です。


いわゆる彫刻刀はピカピカに研がれていました。


古い道具も多く、上の(きぬた)は東京造形大学の学生時代に授業で作ったものだとか。
表面に貼ってあるゴムは車のラジアルタイヤで、ご自分で工夫してこしらえたそうです。


この彫刻刀は生まれて初めて依頼された仕事、
函館のトラピスト修道院に収めた「聖母子」像を作る時に手に入れたもの。

アトリエは木像2階建てで、1階が彫刻のためのスペース。
2階がデッサンのためのスペースだそうです。


優れたドローイング作品をいくつも描かれている舟越さん。
貴重な品が無造作に置かれたり、壁に貼られたりしていました。


デッサンの最初、輪郭などをおおまかに描く時は、先端に鉛筆を付けた木刀を使用。

距離が取れるので、全体を眺めながら描けるというのが理由のひとつ。
もうひとつの理由は、器用な手の技術に頼ることなく、大胆に力強い線が引けるから。


この写真では木の板に直接描いていらっしゃいますが、
実際にはこの上に紙を置き、もっと太く、力強い線を描かれるようです。

アトリエ内にはその他にもなかなか興味深いものがありました。
全てを紹介するのは無理なので、2つほど揚げておきます。


3つの商品のうち、両側の2つは舟越さんの作品を3Dプリンタで再現したもの。
形はきちんと出来ているそうですが、色がなぜかどす黒くなってしまったらしいです。
3Dプリンタのお店の人も「原因がわかりません」と言っていたとのこと。
ちなみに真ん中は、木彫作品を作る過程でこしらえた粘土の模型というお話でした。

ちなみに舟越さんのお父さんも有名な彫刻家(舟越保武さん)。
舟越さんはそのお父さんのデッサン(をカード化したもの)を壁に貼っていらっしゃいました。


キリスト像で、描いたご本人も「好きな作品だ」とエッセイに書いておられます。
舟越さんがお父さんのことを芸術家としてどれだけ尊敬しておられるかがわかります。

舟越さんはとてもいい方で、こちらのいろんなリクエストに応えていただき、
1対1のアトリエで、2時間40分ほども話をしてくれました。


インタビューが終わった後、車で最寄り駅まで送ってもいただきました。
本当にありがとうございます。

そんな舟越さんの作品に、いま出会える場所があります。
それは東京都美術館の企画展「木々との対話―再生をめぐる5つの風景」。
國安孝昌、須田悦弘、田窪恭治、土屋仁応、舟越桂と、
現代日本で木を素材として用いている5人の代表的作家のグループ展です。
木による表現の奥深さを体感できる展覧会になっています。
10月2日まで開催されているので、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

展覧会概要
名 称/木々との対話―再生をめぐる5つの風景
会 期/2016年7月26日(火)~10月2日(日)
会 場/東京都美術館 ギャラリーA・B・C
休 日/月曜日 ※ただし、9月19日(月・祝)は開室
時 間/9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)※9/23、9/30を除く
8月5日(金)、6日(土)、12日(金)、13日(土)、9月9日(金)、10日(土)は9:30~21:00
観覧料/一般 800円、大学生・専門学校生 400円、65歳以上 500円
*高校生以下無料。
*10月1日(土)は「都民の日」により、どなたでも無料