先日、国連教育科学文化機関(UNESCO)の諮問機関である国際記念物遺跡会議によって、
岩手県の「平泉の文化遺産」と東京都の「小笠原諸島」が世界遺産への登録勧告を受けました。
テレビなどのマスコミで大々的に報じられただけに、このニュースをご存知の方も多いでしょう。
平泉は「世界文化遺産」、小笠原は「世界自然遺産」への、いわばノミネートです。
勧告とはいえ、この段階までくれば、まず間違いなく世界遺産登録まで辿り着けるでしょう。
登録運動を進めてこられた方々、応援されてきた方々には、「おめでとう」と申し上げます。
ところで、昨日の入ってきた「日本から世界記憶遺産」が生まれたというニュースをご存知の方は、
一体どれくらいいらっしゃるでしょうか?

耳慣れないかもしれませんが、「世界記憶遺産」とは「世界文化遺産」や「世界自然遺産」と同じく、
UNESCOが創設したもので、文書や絵画、音楽、映画など歴史的資料の保護を目的としています。
政府申請に限る世界遺産と違い、自治体や個人でも申請可能(1カ国2件まで)で、
真正性や希少性などを審査し隔年で選出されます。
これまで「フランス人権宣言」やベートーベン「第9交響曲」の草稿などが登録されています。

さて、今回世界記憶遺産への登録が決まったのは、炭鉱記録画家・山本作兵衛の絵画や日記。
山本作兵衛の名前を聞いたことがある方は、おそらくそれほどいらっしゃらないと思います。
この人は、福岡県笠松村(現・飯塚市)出身で、14歳から筑豊各地の炭鉱で働いた経験をもとに、
「子孫に炭鉱の生活や人情を伝えたい」と、64歳から炭鉱労働者の日常を墨や水彩で描きました。
余白に解説文を添える手法で1000点以上の作品を残し、うち約600点が福岡県有形民俗文化財です。
作品のほとんどは、田川市石炭・歴史博物館に収蔵されていますが、
一部は、「美術屋・百兵衛」No.17で取材した飯塚市歴史資料館にもあります。
$Mr.Mのひとりごと-山本作兵衛翁の写真と作品(飯塚市歴史資料館)

(105p「炭鉱とともに栄えた飯塚の歴史と文化」に掲載)
その人生や作品は記憶に残っていますが、まさかこれほど大きなニュースになるとは予想外です。
画家が描いた絵や、文筆家が書いた文章ではないので、稚拙な部分も確かにあります。
しかし、経験者でなければわからない炭鉱についての詳細が描かれて(書かれて)いることが、
おそらくは今回の登録理由でもあったのでしょう。
狭い坑道で採炭するふんどし姿の男女やガス爆発の惨状、長屋での子供の遊びなど、
当時の暮らしを克明に伝える絵画類は、臨場感にあふれています。

平泉や小笠原より一足先に正式に「世界遺産」となった山本翁の作品群、
筑豊地方にまで足を運ぶ機会はそうそうないかもしれませんが、
機会があれば、ぜひ一度田川市石炭・歴史博物館や飯塚市歴史資料を訪れてみてください。

↓「世界記憶遺産」関連の記事(抜粋)
http://www.asahi.com/national/update/0526/SEB201105260018.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110526-00000006-mai-soci
http://mainichi.jp/area/fukuoka/news/20110527ddlk40040452000c.html