これまで

生き甲斐を求めてこなかった

僕には

生き甲斐はない


朝掃除をして

洗濯をして

外食はせず

一人でご飯を作り食べ

時々、彼女と町中華や焼肉屋


庭では

草花を育て

時々、図書館へ行き

時々、丸の内の丸善

近所のスーパーで買い物をして


猫と遊び

その隙間に仕事を入れた


変化のない

ただの生き方を

老後でも続けられるよう

蓄えを用意してきた


家を買い

老後の生活費を用意する


それだけが

働くモチベーション


ある意味

生き甲斐とも言える


収入が少ないと言う彼女は

支出が多く見えたから

預貯金も少なそうと考え


老後に

二人が生きていくのに

必要な金額を調べ

僕が工面しようと

それを目指した


家と

生活費が用意出来れば


彼女が

無計画な借金さえしない限り

生きていける


彼女の

作家活動が

プラマイゼロだったとしても

彼女は老後を楽しめると思った


僕は

仕事を辞め

ただの変化のない生き方をしながら

資産運用、配当などで得た

余剰金で

時々、彼女と旅行に行く


でも

それは

みんな

僕の独りよがりな未来だった


今は

家庭菜園の出来る土地もない

アパート暮らし


いつかは

家を買いたいと

妹に話すと


独りなんだし

大きな買い物は

必要ないんじゃない?と


そうは言うものの

庭のある家に住みたい気持ちは

まだある


もう少し

利便性の良いところに

庭付き借家か


本当に孤独に耐えられるなら

もっと田舎に

土地付き戸建て購入か


それも無理なら

東京でアパート暮らし


いずれにしても

いつかは独居老人になる


そう

家を建てると言えば

父親は


家族のために

生涯で二度家を建てた


初めに

建てた家は

完成後、造りが雑だったこと


天井の木の感じが

鬼か化け物の目に見えると

僕が言ったようで


半年後には

別の場所に家を建てることになった


そう

思い出した


一度

その2件目の家が

未完成の状態

まだ屋根にブルーシート


父親と

完成前の写真を撮りに行った

妹もいた気もするがよく覚えていない


2階に上がり

何かを敷いて

木の匂い

寝転び天井を眺めた


広い庭もあった

クレーンで大きな樹木も運ばれてきた

家庭菜園もあった


それなのに

同じ天井の下で

家族揃って

笑うことはなく

家族最後の家となった


その父親も

数年前

集中治療室で

ひとり

ひっそりと亡くなった


父親の最期に

目に映ったものが

集中治療室の

孤独な天井だったのかと思うと

罪悪感がある


せめて

混濁する意識の中

理想の家の天井の下で

たくさんの家族に囲まれていて欲しい


これまで

あんな風になりたくないと

どこかで

否定してきた父親


僕も

同じ道を辿ってる気がする


だとしたら

これは因果だろう


父親も僕も

次の人生では

その因果を断ち切り


家族を育て

家族に育てられ

もう少しうまくやって欲しい


出来れば

天井の下に家族の笑い声


◾️追記

葬式の日

父親の父は

父親が小さい時に亡くなって

父親は父親が何かを知らないで育ったと

伯母が言った


僕との関係が良くなかったのは

子供との接し方がわからなかったから


僕も

どう親と察したら良いのか分からず

これまで生きてきた


父親は家族が欲しかった

その家族のために

家も建てたが


家族はバラバラで

父親の思うようにはならなかった


家族をよく知らない僕は

家族が欲しかった


子供を諦めたのは

僕も父親のようになりそうで怖かったから


それでも

彼女に出会い


家族のために

家を買いたいと思った


おそらく

僕は彼女を

僕の描く家族にしようとした


そして

孤独な天井を眺めてる