ミステリ作家だと思っていた辻堂ゆめさんですが、「十の輪をくぐる」ではミステリ要素が多少あるものの、親子三代を描いた大河小説(しかも傑作!)になっていて驚きました。

 

本作もその延長線上にあるような大河小説です。 生まれ育った村がダムの底に沈むという悲哀を味わった女性と、その娘、さらに孫娘の代まで、親子三代のストーリーが展開します。

 

瑞ノ瀬村に暮らす佳代、千代、三代の三姉妹は、美しい自然の中をかけまわり元気に暮らしていた。 あるときそんな瑞ノ瀬村に、ダム建設計画の話が浮上する。 佳代たちの愛する村が、湖の底に沈んでしまうという。 佳代は夫の孝光とともに故郷を守ろうと奔走するが・・・。 (カバー裏紹介文)

 

物語は3つの章に分かれていて、第一章が孫娘・都、第二章が都の母・雅枝、第三章が雅枝の母・佳代が主人公となります。

 

第一章「雨など降るも」 :海外留学するも途中で辛くなり帰国してしまった都。 引きこもって生活する毎日でしたが、恋人の実家が豪雨で被災したというニュースを見て夢中で家を飛び出します。

 

第二章「夕日のさして山の端」 :地元企業の営業部長として長い間家族を支えてきた雅枝ですが、定年間近となって思い出すのは、ダム建設によって生じた両親との確執という苦い記憶。

 

第三章「山ぎは少し明かりて」 :幼い頃から自然豊かな瑞ノ瀬村に暮らし、幼馴染の孝光と結ばれて幸せに暮らしていた佳代ですが、突然ダム建設計画が持ち上がり、瑞ノ村が湖に沈むという・・・村に暗雲が立ち込めます。

 

「十の輪をくぐる」と同様に親子三代にわたる時代を越えたストーリーが語られ、読み応え十分です。

 

中心となるのはやはり、全編の半分以上を占める第三章です。 戦中戦後の苦しい時代を乗り越え、ようやく手に入れた平穏な生活がダム建設計画によって壊されていく描写は辛いものがあります。

 

現代から過去にさかのぼっていく構成は、第三章をクライマックスに置きたかったことと、「本当のおばあちゃんではない」という雅枝の言葉の謎解きをラストにもってきたからなのでしょう。

 

ただ、それによって第一章、第二章と第三章が分離してしまった印象を受けました。 過去から現在へという通常の構成でも良かったのでは?・・・勝手な思いですが。

 

ともあれ、辻堂ゆめさんには大河小説をまた期待したいですね。