黒川博行さんの作品の中では、やはり〈疫病神シリーズ〉が代表作であり抜群に面白いのですが、2018年の第7作「泥濘」以降刊行されていません。

 

シリーズ新作を待ちわびつつ、それでも黒川作品独特の大阪弁でのコミカルな会話を読みたくなると、過去の〈大阪府警シリーズ〉やノンシリーズの作品を読んだりしています。

 

本作は2019年のノンシリーズ作品。 しかし大阪府警の刑事コンビが活躍するので、〈大阪府警シリーズ〉の一冊と言っていいのかもしれません。

 

沖縄の互助組織、模合。 グループで毎月集まって金を出し合い、欲しい人間から順に落札するこの制度で集めた、仲間の金六百万円を持ち逃げした比嘉の行方を追うこととなった大阪府警泉尾署の刑事、新垣と上坂。


どうやら比嘉は沖縄に向かったらしいという情報をつかんだ二人が辿り着いたのは、沖縄近海に沈む中国船から美術品を引き上げるという大掛かりなトレジャーハントへの出資詐欺だった――。 

 

初期警察小説から三十余年、黒川博行の新たな正統警察捜査小説シリーズ、ここに誕生。 (BOOKデータベースより)

 

今回の刑事コンビは、女性にもてる容姿を持つ(これまでのコンビのキャラでは珍しい)新垣遼太郎と、デブで痛風持ちで映画オタクの上坂勤。 新垣が語り手となっていました。

 

コミカルな大阪弁のやりとりは健在で、特に上坂のキャラが面白いです。

 

捜査中でも隙あらば旨いものを食べようと相方を誘い、映画の話になると止まらなくなり、それでも痛風の痛みを押してサンダル履きで(腫れて靴が履けない)捜査に向かいます。

 

彼らが追う事件は、単純な持ち逃げ事件から、舞台を沖縄に移しての沈没船詐欺事件に発展していきます。 沈没船に積まれた財宝を引き上げるとして出資を募る詐欺事件は以前ニュースになりましたね。

 

暴力団もからんでくるのですが、〈疫病神シリーズ〉のように拉致監禁されたり、銃で撃たれたりなど、命の危険がともなうハラハラした展開にはなりません。

 

漫才のようなやり取りをしながらも、地道に足で稼ぐ捜査。 そしてその中にほの見える報われない現場警察官の悲哀。 このあたりが読みどころでしょう。

 

上坂勤刑事は、他の黒川作品にも登場しているようなので読んでみたいですね。