呉勝浩さんは、1981年青森県八戸市に生まれました。 大阪芸術大学卒業後はアルバイトをして生活していましたが、2015年「道徳の時間」で江戸川乱歩賞受賞。

 

その後、大藪春彦賞など様々な賞を受賞し、2022年の「爆弾」がこのミス1位になるなど、最も注目されているミステリ作家の一人でしょう。

 

暴力描写が苛烈という話も聞いていて、呉さんの作品は読まずにいました。 しかしそろそろ1作読んでみようかと思い、吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞をW受賞している「スワン」を手に取りました。

 

ショッピングモール「スワン」で無差別銃撃事件が発生した。 死傷者40名に迫る大惨事を生き延びた高校生のいずみは、同じ事件の被害者で同級生の小梢から、保身のために人質を見捨てたことを暴露される。

 

被害者から一転して非難の的になったいずみのもとに、ある日一通の招待状が届いた。 5人の事件関係者が集められた「お茶会」の目的は、残された謎の解明だというが……。 文学賞2冠を果たした、慟哭必至のミステリ。 (BOOKデータベースより)

 

ショッピングモールのスカイラウンジで犯人に銃を突き付けられ、跪いた他の客たちをどの順番で殺すか選べと強要されるという・・・・主人公・片岡いずみの過酷な体験は何とも表現のしようがありません。

 

しかし、事件後は犯人が死んでいるので、マスコミやネットの非難は、死んでしまった犯人から、初動が遅れた警察、適切な対応が出来なかった警備員、さらには生き残ったいずみに向かっていくのです。

 

このあたり、極限状況の事件現場にいなかった人間が後で好き勝手言えるという、今のネット社会でいかにも起こりそうなこと。 あまりに無責任です。

 

「お茶会」に集められた5人の事件関係者。 主人公も含めた5人すべてが何かを隠しており、招集した弁護士・徳下と5人の会話の中で真実が徐々に明らかになっていくストーリーは読み応え満点でした。

 

タイトルの「スワン」は、「白鳥の湖」をテーマにしたショッピングモール。 そして片岡いずみと同級生・古館小梢がバレエ教室で「白鳥の湖」の役を争っていたことから付けられています。

 

↓物語の中で言及される「黒鳥のパ・ド・ドゥ」

 

無差別銃撃事件の犯人たちの動機も語られますが、やはり主題はそれに直面した人々の心理や行動なのでしょう。

 

暴力にさらされた人間の弱さ、その後の心の傷などが赤裸々に描かれます。 あまりにも理不尽ですが、それでも生きていかなければならない。 それを自覚した主人公が、最後に示した決意には胸を打たれました。

 

ハードな描写もありますが、お勧めです。