宮内悠介さんは、2012年のデビュー作「盤上の夜」がSF大賞受賞&直木賞候補となり、現在までに直木賞ノミネートが4回、芥川賞ノミネートが2回。

 

SF作家でありながら、純文学としての評価も高いという稀有な作家です。

 

本作は2016年の作品で、吉川英治文学新人賞を受賞しています。

 

進化を、科学を、未来を――人間を疑え! 百匹目の猿、エスパー、オーギトミー、代替医療……人類の叡智=科学では捉えきれない「超常現象」を通して、人間は「再発見」された――。

 

デビューから二作連続で直木賞候補に挙がった新進気鋭作家の、SFの枠を超えたエンターテイメント短編集。 (BOOKデータベースより)

「盤上の夜」は、囲碁・将棋・麻雀などテーブルゲームをテーマにしたSF短編集だったのですが、本作では下記のような「超常現象」を扱った連作短編集でした。

 

『百匹目の火神』 :火を使うニホンザル、共時性

『彼女がエスパーだったころ』 :スプーン曲げ、超能力

『ムイシュキンの脳髄』 :進化型ロボトミー手術

『水神計画』 :声をかけることで浄化される水

『薄ければ薄いほど』 :量子結晶水、終末医療

『沸点』 :ティッピング・ポイント、カルト教団

 

主人公である雑誌記者が、関係者や団体に取材を行っていくというルポルタージュのような形式で進んでいきます。

 

いかがわしいものも含めて「超常現象」というSF的テーマを扱っているものの、現象そのものを掘り下げるのではなく、それに直面した人間がどのように考え、どのように行動するかが描かれていきます。

 

現象を肯定する者、否定する者、執着する者、利用する者、すがる者・・・人間の様々な側面があらわになり、事件が起こります。 客観的立場だった主人公もやがてそれに巻き込まれていくという、サスペンス要素もありました。

 

ルポルタージュ的語り口で見知らぬ風景を見せられているような小説です。 これは「盤上の夜」とも共通するのですが、「盤上の夜」のようなスケールの大きさは感じられなかったかな。