朝井リョウさんの作家生活10年記念作品であり、柴田錬三郎賞受賞、映画化、50万部突破のベストセラーと話題に事欠かない作品ですね。

 

作者自身も「小説家としても一人の人間としても、明らかに大きなターニングポイントとなる作品です」と語っています。

 

朝井リョウ作品の熱心な読者ではありませんが、これは読んでおこうかなと。

 

自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。 息子が不登校になった検事・啓喜。 初めての恋に気づく女子大生・八重子。 ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。

 

ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。 だがその繫がりは、”多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。 読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。 (文庫裏紹介文)

 

不登校になりYouTubeに生きがいを見い出す小学生、人と異なる性的欲求を持ちそれをひた隠して生きる人々など、マイノリティとなった人々が登場します。

 

現代は”多様性を尊重する時代”になったと言われます。 しかし、そんなに簡単に言い切ってよいのでしょうか?

 

尊重される多様性とはどこまでの範囲を指すのか? 多様性を認めるという言葉自体、自分はマジョリティであるとい安心感が根底にあるのでは?

 

作中にある下記の言葉は痛烈でした。

マジョリティ側に生まれ落ちたゆえ自分自身と向き合う機会は少なく、ただじぶんがマジョリティであるということが唯一のアイデンティティとなる。そう考えると特に信念がない人ほど、”自分が正しいと思う形に他人を正そうとする行為”に行き着く。

 

マイノリティの孤独と苦悩、マジョリティ側の考える”正しさ”。 これらのあまりにも深いギャップは埋めようがなく、絶望感も漂います。

 

冒頭に描かれる児童ポルノ摘発の記事は、終盤になるとその中に思いもよらない真相が隠されていることがわかるのですが、これもマジョリティが読み取る事実とマイノリティの真実のギャップなのでしょう。

 

通常なら、冒頭記事の意外な真実というミステリ的展開を楽しむのでしょうが、色々考えさせられ楽しめませんでしたねー(^^;)

 

”多様性”というキーワードで深く考えてみたい方にはお勧めです。