本格ミステリの中でも、物語性や人物の内面描写は最小限にして、事件の論理的謎解きを中心に据える小説をパズラーと呼びます。
大山誠一郎さんは、パズラー作家の代表格であると共に、ほとんど作品が短編集なので、トリッキーかつ論理的な謎解きを何度も楽しむことが出来て好きですね。
今回は大山作品には珍しく、特殊設定を用いたミステリでした。 その特殊設定とは・・・・「ワトソン力」です。
目立った手柄もないのに、なぜか警視庁捜査一課に所属する和戸宋志。 行く先々で起きる難事件はいつも、居合わせた人びとが真相を解き明かす。 それは、和戸が謎に直面すると、そばにいる人間の推理力を飛躍的に向上させる特殊能力、「ワトソン力」のおかげだった。
殺人現場に残されたダイイング・メッセージ、雪の日の不可能犯罪、バスジャックされたバス内の死体……。 今日も和戸を差し置いて、各人各様の推理が披露されていく! (BOOKデータベースより)
『赤い十字架』、『暗黒室の殺人』、『求婚者と毒殺者』、『雪の日の魔術』、『雲の上の死』、『探偵台本』、『不運な犯人』という7つの事件に加えて、全編を貫く謎解きもありました。
主人公は、警視庁捜査一課の刑事・和戸宋志(わとそうじ)で、行く先々で難事件に遭遇します。 この事件遭遇率の高さも特殊能力だと思いますが、まあ他の名探偵たちも同じ能力を持っているので、取り立てて特殊ではないかな(笑)
しかし彼の場合は自分で推理する前に、事件の関係者がこぞって推理を披露し、やがて真相にたどりついて事件が解決されるのです。 これが「ワトソン力」。
推理合戦を行う関係者たちの中に、嘘の推理をでっちあげる犯人も含まれているし、誰が探偵役として真相にたどり着くのかもわからないという、非常に面白い設定のミステリになっています。
7(+1)の事件はどれも粒ぞろいの良作ですが、中では、パーティー会場で毒殺事件が起こり、「ワトソン力」発動かと思ったら実は・・・という『求婚者と毒殺者』、バスジャックの最中に起こった殺人事件の意外な犯人を描く『不運な犯人』が面白かったですね。
謎解き、犯人探し、の他に推理合戦、多重解決、探偵探しまで楽しめるという、ミステリファンは読み逃せない良作だと思います。
