作者の南杏子さんは、現役の内科医として終末期専門病院に勤めながら、小説を執筆しています。

 

現役の医師で小説家というと、帚木蓬生さん、久坂部羊さん、海堂尊さん、知念実希人さん、などなど結構多いんですが、それらの医療小説と比べても、南さんの作品は医療の現場をリアルに描いている点で秀でていると思います。

 

デビュー作の「サイレント・ブレス」は、リアルな終末医療を描きながらミステリとしても優れているという傑作でした。

 

本作は、2021年に刊行された南さんの4作目で、これまで女性医師を主人公としていましたが、本作では初めて看護師が主人公になっています。

 

二子玉川グレース病院で看護師として働く31歳の堤素野子は、患者に感謝されるより罵られることの方が多い職場で、休日も気が休まらない過酷なシフトをこなしていた。 あるとき素野子は休憩室のPCで、看護師と思われる「天使ダカラ」さんのツイッターアカウントを見つける。

 

そこにはプロとして決して口にしてはならないはずの、看護師たちの本音が赤裸々に投稿されていて・・・・。 終末期の患者が入院する病棟。死と隣り合わせの酷烈な職場で、懸命に働く30代女性看護師の日々をリアルに描いた感動の医療小説! (表紙扉の紹介文)

 

主人公の看護師・堤素野子が過ごす終末医療の過酷な勤務の日々は、読んでいて本当に辛くなりました。

 

認知症などで手の掛かる患者が多い中、食事介護、入浴介護、トイレの補助など目が回るような忙しさです。 しかも家族からのクレーム、上司からの𠮟責、長時間労働による睡眠不足。 倒れてしまわないのが不思議なほどでした。

 

作者の南杏子さんは、2018に横浜で起こった、看護師が点滴に消毒液を入れて患者を

中毒死させた事件を知って、この小説を書こうと思い立ったとのこと。

 

確かに、そういう心理状態になっても不思議ではないほどの過酷さです。

 

これがリアルな医療現場なのでしょう。 ラストは、ほっとさせてくれますが、ラストにたどり着くまでの読書は辛かったなー。