前回読んだ「昨日がなければ明日もない」があまりに哀しい話だったので、心が癒される小説をと。 そんな時に選ぶのは、やはり瀬尾まいこさんの小説が一番ですね。

 

今回は瀬尾さんが中学生の駅伝大会を描いた「あと少し、もう少し」です。

 

女性作家のスポーツ小説と言うと、あさのあつこ「バッテリー」、佐藤多佳子「一瞬の風になれ」、森絵都「DIVE!!」、三浦しおん「風が強く吹いている」、須賀しのぶ「雲は湧き、光溢れて」など多彩かつレベルの高い傑作が目白押し。

 

本作はこれらの傑作群の中に入れて見劣りしない、素晴らしい小説でした。

 

陸上部の名物顧問が異動となり、代わりにやってきたのは頼りない美術教師。 部長の桝井は、中学最後の駅伝大会に向けてメンバーを募り練習をはじめるが…。

 

元いじめられっ子の設楽、不良の大田、頼みを断れないジロー、プライドの高い渡部、後輩の俊介。 寄せ集めの6人は県大会出場を目指して、襷をつなぐ。 あと少し、もう少し、みんなと走りたい。 涙が止まらない、傑作青春小説。 (文庫裏紹介文)

 

プロローグの後、駅伝の6区間の章立てで「1区」~「6区」と、各区間の走者が語り手となる構成。 それぞれ、駅伝チームの結成前後から大会で走る様子まで語られていきます。

 

この構成が抜群に巧いんです!

 

それぞれの事情をかかえて駅伝に出場する1区:設楽、2区:大田、3区:ジロー、4区:渡部、5区:俊介、6区:桝井。 そういう事情を他人には見せないようにしているところが、いかにも中学生らしいですね。

 

それぞれが語り手となるので、同じシーンを異なった視点で語ることになり、物語や人物の理解が深まっていきます。 不良の大田、プライドの高い渡部の内面は・・・・

 

彼らを支える大人たちも光っています。 頼りないようでいて、実は生徒たちをよく見ている上原先生。 出番は少ないけど、良い先生だとわかる小野田先生。 ジローの母親、桝井の両親、渡部のばあちゃん。

 

それぞれの想いが交差して迎える駅伝大会。 全く異なる個性を持った6人のメンバーに自分を重ねる読者もいると思います。 私の場合は、頼まれると断れないジローとプライドの高い渡部の中間といったところでしょうか。

 

でも、一番感動したのは小野田先生の応援に大田が奮起する場面。 なんだか胸が熱くなりました。 読者それぞれに共感するキャラ、感動する場面は異なるかもしれませんね。 お勧めです。