東京近郊の住宅街で起こった一家4人の惨殺事件。 物語は、ルポライターがこの事件の被害者夫婦についてインタビューするという形式で進んでいきます。

 

宮部みゆきさんの直木賞作「理由」を思わせますね。 「理由」はかなり社会派寄りの作品でしたが、貫井徳郎さんの「愚行録」の場合ははたして?

 

ええ、はい。あの事件のことでしょ? ―幸せを絵に描いたような家族に、突如として訪れた悲劇。 深夜、家に忍び込んだ何者かによって、一家四人が惨殺された。

 

隣人、友人らが語る数多のエピソードを通して浮かび上がる、「事件」と「被害者」。 理想の家族に見えた彼らは、一体なぜ殺されたのか。 確かな筆致と構成で描かれた傑作。 『慟哭』『プリズム』に続く、貫井徳郎第三の衝撃。 (文庫裏紹介文)

 

冒頭に提示される「3歳女児衰弱死」の新聞記事。 殺された夫婦についての、様々な知人・関係者からのインタビュー。 そして、途中に挿入される妹が兄に向って語りかけるモノローグ。

 

この3者が結びついて明らかにされる事件の真相には驚かされます。 トリッキーな謎解きミステリとして十分な出来ですね。

 

さらに「愚行録」というタイトル通り、有名大学を出た美男美女の理想的夫婦と思われたのが、インタビューを重ねるごとに裏側の醜い愚行が見えてきます。

 

もちろん、殺人は最悪の愚行なのですが、そこにつながって行く人間の愚行の数々。 文庫300ページと、それほど長くない小説の中に、エリート意識、学内派閥、ストーカー、性的虐待などなど、イヤミス的要素がてんこ盛りです。

 

社会が生んだ悲劇にクローズアップした「理由」に対して、人間の醜さが生んだ悲劇を描いたのが「愚行録」。 ミステリ的要素を最小限にした「理由」に対して、しっかりミステリしている「愚行録」。

 

私的には「理由」よりも「愚行録」のほうが好きですね。 お勧め。