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その可能性はすでに考えた (講談社文庫)
821円
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ひとつの謎に対して、様々な推理が繰り広げられるという、”多重解決”ミステリです。 このタイプのミステリは、ブログで紹介した中でも西澤保彦「聯愁殺」、岡嶋二人「そして扉が閉ざされた」、歌野晶午「密室殺人ゲーム王手飛車取り」など、ユニークな傑作が目白押し。
本作は、井上真偽さんがデビュー2作目として執筆した作品です。 はたして、上記のベテラン作家の傑作群に迫ることができるか・・・・
山村で起きたカルト宗教団体の斬首集団自殺。 唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。 首無し聖人伝説の如き事件の真相とは？ 探偵・上苙丞はその謎が奇蹟であることを証明しようとする。 論理の面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵にミステリ界激賞の話題作。 （文庫裏紹介文）
いや、驚きました。 多重ミステリとしての設定のユニークさにしても、ロジックを駆使した推理合戦の面白さにしても、上記の傑作群に迫る・・・・いや肩を並べる作品でした。
通常のミステリ小説における探偵とは、一見実行不可能（奇跡）と思える事件が、犯人の手による犯罪であることをロジックで解きほぐす存在です。 しかし、本作の探偵・上苙丞(うえおろじょう)は違います。 彼は奇蹟の存在を信じ、真の奇蹟を証明するのが積年の悲願なのです。
今回起きた事件では、首を切り落とされた少年が少女を救うために、少女を抱きかかえて運んだという信じられない出来事が・・・・
上苙は、これを奇蹟と認定するために、挑戦者たちが主張する様々な仮説を次々と否定していきます。 どんなにぶっ飛んだ仮説を持って来られても、「その可能性はすでに考えた」というキメ台詞とともに、論理の矛盾点を突いて切り崩していく面白さ。
さらに、クライマックスで挑戦者たちの黒幕が登場し、「否定の否定」という罠が発動されます。 ロジックの展開だけで、ここまでストーリーを盛り上げるミステリは他にはなかなかないでしょうね。
ラストに上苙丞の悲願が達成し、奇蹟が証明されてしまってはミステリから逸脱してしまうので、本作はうまい直地点が用意されています。 多重ミステリの可能性を広げた作品として非常に楽しませてくれました。 お勧めです。