流 (講談社文庫) 流 (講談社文庫)
950円
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2015年下半期の直木賞受賞作です。 9人の選考委員全員が満票を投じるという、前代未聞の注目作です。

 

ただ、又吉さんの「火花」が芥川賞を同時受賞したので、世間の注目はすべてそちらに行ってしまいましたが・・・・

 

一九七五年、台北。内戦で敗れ、台湾に渡った不死身の祖父は殺された。 誰に、どんな理由で? 無軌道に過ごす十七歳の葉秋生は、自らのルーツをたどる旅に出る。

 

台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。 激動の歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡をダイナミックに描く一大青春小説。 直木賞受賞作。 (文庫裏紹介文)

 

作者の東山彰良さんは、台湾で生まれ9歳の時に来日しています。 この物語は、お祖父さんが実際に国民党の遊撃隊に入っていたという史実も取り混ぜながら、十七歳の葉秋生を主人公とした波乱万丈の青春小説です。

 

青春小説らしい幼馴染との初恋のエピソードもありますが、高校を退学になったり、幽霊に遭遇したり、不良の頭目との一騎打ちに望んだり、軍隊で徹底的にしごかれたり、台湾での破天荒な日々が生き生きと描かれます。

 

このあたり、日本人作家の青春小説と比べて、一種突き抜けたものを感じてしまいました。 これは在日韓国人の金城紀一さんが直木賞を受賞した青春小説「GO」にも同じ匂いを感じます。 大陸的な感性なのでしょうか・・・・

 

さらに、この作品は単なる青春小説の枠を越えて、大きな別の側面が織り込まれています。 まずは、葉秋生の祖父を殺したのは誰か?というミステリ的興味。 そして、戦前は日本の支配を受け、戦後は国民党と共産党の内戦によって中国大陸と決別するという台湾の歴史です。

 

この2つの要素は、ラストで祖父殺しの犯人が判明し、意外な形で結びつくことになります。

 

台湾史の悲劇という重いテーマも取り込みながら、本質は破天荒で痛快な成長物語。 スケールの大きな青春小説を読むことが出来ました。 個人的には「GO」のほうが好きなんですが、こちらもお勧めですよ。