作者のハリエット・アン・ジェイコブズは、今から200年ほど前、まだ奴隷制度が存在していた米国南部ノースカロライナ州において、黒人奴隷の両親の元に生まれました。

 

この作品は、苛酷な運命に立ち向かった作者の半生が描かれていますが、そのあまりにセンセーショナルな内容から、自費出版での刊行当時からフィクションだと思われ、やがては完全に忘れ去られてしまいました。

 

しかし1987年、ある歴史学者の研究によって、この作品が事実に非常に忠実な自伝であるということがわかると、あらためて出版されることになります。

 

すると、じわじわと読者が増えていって、特に21世紀になってからは米国の古典名作として、「若草物語」、「小公女」、「宝島」などと肩を並べる存在になっているのです。

 

好色な医師フリントの奴隷となった美少女、リンダ。 卑劣な虐待に苦しむ彼女は決意した。 自由を掴むため、他の白人男性の子を身篭ることを――。

 

奴隷制の真実を知的な文章で綴った本書は、小説と誤認され一度は忘れ去られる。 しかし126年後、実話と証明されるやいなや米国でベストセラーに。 人間の残虐性に不屈の精神で抗い続け、現代を遙かに凌ぐ“格差”の闇を打ち破った究極の魂の物語。 (文庫裏紹介文)

 

目を覆いたくなるような奴隷制度の苛酷さが描かれます。 白人に酷使され、虐待されても忍従しなければならない黒人奴隷の悲しさ。 女性奴隷は、白人所有者にレイプされ、子供は親から引き離されて人身売買される。

 

奴隷制度は黒人を虐げるだけではなく、白人の道徳観念をも麻痺させてしまうのが、まさに人間の暗部をあらわにする様な恐ろしさがあります。 

 

このような信じ難いことが社会的に容認されている世界で、迫害にめげず、自由と尊厳を求めて、知性と勇気で戦った一人の黒人女性の物語です。

 

翻訳者の堀越ゆきさんも後書きで述べていますが、この物語は単に奴隷制度の詳細がわかるという文献的価値を遥かに超えるインパクトを読むものにもたらしてくれます。

 

自由を勝ち取るために、立って歩くこともできない狭い屋根裏に7年間隠れた後、奴隷制度のない米国北部に逃亡した作者に、白人所有者の追っ手が迫るという後半の展開はもう、目を離すことが不可能です。

 

ノンフィクションとはいえ、これほどの作品を正規の教育を受けていない奴隷少女が執筆できたのは本当に驚き!

 

自由は与えられるものではなく勝ち取るものだというメッセージは現代にも通じる普遍的なものだと思います。 だからこそこの作品は「若草物語」や「小公女」などと同列の作品として評価されたのでしょう。 お勧めです。